□Dependence
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たまに八っつぁんは不思議なことを訊いてくる。



『ビー、お前の1番大切なものってなんだ』
「え?」
『お前が1番だと思ってるものってなんだ』
「物?人?」
『人…いや、何でもいい』
「ブラザー」



何でもいい、の言葉の後に続くように即答すると八っつぁんはまるい目を少しだけ細めてたっぷりと時間を使ってから答えた。


『……だろうな』




八っつぁん、オレの答えを予想して、それが自分にとって最悪の答えで、それが合ってた時の気持ちはどんな感じだ?



「八っつぁんは2番目!」
『…充分だ』


目が怖いなぁ八っつぁん。
駄目だ、オレの1番は揺るがない。

八っつぁんの2番も揺るがない。
何があろうと変わらない不動の順位なんだ。

これから抜かされることもないけど、抜かすこともない。


だってオレはブラザーなしじゃここまで生きれてないし、ブラザーはオレが死ぬのが怖いんだ。

オレを失いたくないから雲雷峡に行かせた。


まぁそれはオレを信用してないってことでちょっと傷ついたけど。


「…あのな八っつぁん、オレはブラザーの言葉一つでここまで生きてきた。多分他の奴らからしたらおかしいんだろうな。でもオレにとっちゃあ、それが生きる希望だった」
『わかってる』
「だろうな」
『……』
「ブラザーにも訊いてみてくれ、今の質問」
『わかった』


絶対オレとおんなじようなことを言うから。








**








「…は?」
『だから、テメェの1番大切なものはなんだって訊いてんだよ』
「…それは物限定か」
『何でもありだ』
「…………ビーだな」


珍しく休暇をとれた雷影を雲雷峡に呼び出して、わざわざビーはオレの姿になってから意識をとっかえてまでその質問をさせたいようだった。

その通りにしてみたらこの答えだ。
答えるのが少し遅かったのはもう一つの存在と迷ったからだろう。





この、雲の中にある広大な里と弟、どちらをとるのか。



そしてビーをとった。
即答ではないにしろ、里の長としては充分異端な思考かもしれない。


それともビーを選んだのは人柱力としてなのか。

いや、あり得ない。
この男は違う理由で選んだはずだ。



『じゃあ、2番は何だ』
「里だ」


ほらな、やっぱり。
ならこの質問にも答えられるはずだ。


『何でビーが1番なんだ?』
「…大切、というだけでは里といい勝負だろうな。ただそこに護るべきものとしての意味も入るなら…雷影として失格だがワシはビーをとる」
『…』
「オヤジが死んだ時…何もわからなくなった。力任せに暴れて…見えるもの全てが灰色に染まった感じがしていた。そこにビーが来た時、おかしなことに景色はまた色を取り戻した。それから何かが振り切れたのかもしれないな。ビーを失うのが怖くなった。またあの色のない景色が来ると思うと…恐ろしくてたまらない」
『三代目が死んだから、ビーがいればいいのかよ』


こいつは家族がいればいいのではないかと思った。
ビーでなくとも、血が繋がっていなくとも、もしこいつに兄や姉や妹がいたらそいつらで満足するのではないか。

もしそうだとしたならこいつとビーの思考は根本から違う。


ビーにはこの男しかいない。
縋るものがこいつ以外になかった。

だから、こいつが簡単に零した言葉一つで生きていけたのだ。


「それは違う」


しかしそれも杞憂だったようで安心した。

はっきりと否定した男は依然としてオレを見上げながらもどこか違うところを見ながら口を開いた。


その、笑い方があいつに似ていて不愉快だ。



「あいつだから、大切なんだ」


自分が依存した者に対する、どうしようもなく深い執着をそのまま写したような笑い方が嫌いだ。


『ビーにも同じことを訊いたぜ』


肩が少し揺れたのを鼻で笑う。
気になるのか。


『お前だって即答しやがったよ』
「そうか」


いらつく。うぜえ。

お前達のそれは何だ。
狂気か?それとも他の何かか?
執着と依存を綯い交ぜにしたそれを何て言うんだ?


『お前達は少しおかしいぜ』
「よくわかってる。だがお前も似たようなものだろう」
『あ?』
「お前のビーに対する執着もワシらと同じだ」
『一緒にすんな』
「ならお前はビーが死んだ後はどうする。また新しい器に入れられて満足するのか?」
『………』


こいつらは本当に、本当に何なんだ。
オレの痛いところを的確についてくる。

ビー以外でオレが満足するかって?


『するわけねえだろ』


多分、あいつ以上にオレを使いこなせる奴はいない。

使われる気もねえが。



「同じだ。ビー以外を護りたいとは思わない。兄弟だからというのもある。あいつが人柱力だというのもある。ただそれ以上に、あいつはワシにとって何よりも大切なんだ」
『…それは人間がよく言う愛ってやつなのか?』


雷影は吃驚した顔でオレの目を見てくる。
何だ、オレが愛を語っちゃいけねえのか。

というより、この兄弟のそれが愛以外の何かならオレはもうわからない。

愛ってのは便利な言葉だと思う。
愛ゆえにって言やあ大抵のことは許容されるんじゃないかってくらい。

こいつらの執着も依存も。
愛ゆえにだったら確かに説明がつくかもしれない。
だがもし本当に愛なら。
歪んでいるという他ないだろう。


「愛、か…お前が言うとはな」
『うるせえよ』
「確かに愛だな」
『…歪んでるぜお前ら』
「ワシとあいつは所詮ただの忍だ。いつ死ぬかもわからない状況にいる。どうせ死ぬなら…」




 
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