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□二人が見た夢
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手を引いているのは自分が最も信頼する人で、その人は無言で歩き続けている。
何を言っても何も反応しない。
聞こえてはいるようだった。
「ブラザー、どこに行くんだ?」
彼は答えない。
「なぁ、ここ寒い」
答えない。
もう諦めて手を引かれるままにしようとした。
その瞬間、彼がぼそりと何か呟いた。
「 」
「あ?」
そしてまた彼は何も言わなくなる。
どこへ続くのかわからない道をただひたすらに進み続ける。
足元は暗くて何も見えやしない。
道があるのかもわからない。
あるのは足首まである水だけだった。
「ブラザー?」
彼は、答えない。
***
「っ…!」
弾けるように目を覚ました。
「…、何だ…こりゃ」
体が重い。
ここのところ同じ夢を繰り返し見る。
嫌な夢でもなければいい夢でもない。
それがストレスにでもなっているのか、体調もあまり芳しくなかった。
頭全体がじんじんと痛む。自然と呼吸も浅くなり、汗がシャツを濡らした。
「夢で体調崩すとはなー…」
『珍しいじゃねぇか』
「あぁ」
『言っとくが、オレのチャクラでも精神的なもんから来た病気は軽くはしてやれるが治すことはできないぞ』
「わかってる…」
『んじゃあいい。さっさと治せよ』
倦怠感。
頭痛。
汗。
人は体調を崩すとなぜか人肌が恋しくなるという。
しかしビーは先程見た夢のことで頭がいっぱいだった。
「一体あん時…」
彼は呟いたのだ、確かに。
「何て言ったんだろう」
彼は振り向かずに言った。
『 』
「…わかんね」
「何がだ」
「………ブラザー…」
「風邪か?珍しいな」
「…わかんね」
「何か悪い夢でも見たか」
「いや、そうじゃないけど。…ブラザーがオレの方を見ずに呟いた言葉がわからなくてよ」
「そんなこと言ったか」
「だから夢だって」
いきなりの雷影の訪問で驚いたが、ビーは首だけ動かして雷影の方を見た。起き上がる元気はない。
具合の悪さの原因である雷影がいることでやはり夢は解決に向かっているのかと予想すると、何の前触れもなく強い眠気がビーを襲った。
更に重くなった体は鉛のようにその場から動かない。指一本動かせないビーは口だけ動かして雷影に伝えた。
声は途切れ途切れで、呼吸は早かった。
「ご、めん…ブラザー…オレ、…寝る…」
「あぁ、いい夢を見ろよ」
ビーは見る夢が先程と同じものだとどこかで確信していた。
そしてまた巻き戻された夢が始まる。
今度こそあの言葉を聞き取ってやると息まいたビーは、一瞬にして夢の中へと沈み込んで行った。