□利き手
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左腕がない。




それは干柿鬼鮫と戦っている時、雷影達が来た時にわかった。


ごつい、筋肉の塊の左腕。
白いマントのような、服とも言えぬ服を纏った雷影の左腕の部分。

いつもなら服を着ていてもわかる存在が、今は布が下がっているだけだ。


肘から先が無くなった。

傷口を見た時それはビーに現実として突き刺さった。

あまりその経緯を喋ろうとしない雷影に代わってシーがビーに聞かせた。



五影会談にサスケが乱入したこと。
雷影がビーの仇を討とうとしたこと。
ビーのために左腕を消えない黒炎、天照の犠牲にしたこと。

それに、その前にサスケを尾行しようとしたジェイが殺されたこと。

そしてマダラからビーが生きていると知らされた時の雷影の反応。



ビーは静かにそれを聞いていた。
特別驚きもしなかった。

それがシーには嫌な感じとして写った。

だからこそ言った。



「全部お前のためだビー。ジェイもお前の行方を探すためにサスケを尾行しようとし、死んだ。雷影様の左腕もだ。お前のためだ」
「……」



『お前のためだ』を強調して言ったシーに、ダルイも雷影も咎めなかった。


唯一、ビーの中に住む八尾だけがビーの心境をわかっているだけに叫んだ。



『あんだコイツはよ…。なぁビー、お前がどんな思いで里を抜けだしたのか教えてやれよ!』
「いいんだ八っつぁん。オレのせいだ。オレのせいでブラザーの左腕はなくなったんだし、ジェイが死んだ」
『…お前はそれでいいのかよビー』
「……」
『お前が今までどんな扱いを受けてきたのかコイツは知ってるくせに言うんだぜ?お前がオレをコントロールできるようになってからの里の奴らの態度も気にく食わなかった…!あぁムカつくぜマジでよ…!一体どんだけ雲はテメェを"完璧な人柱力"として戦闘に投入したと思ってんだ?』
「いいんだ八っつぁん…。わかってたよ」
『…』
「オレに自由なんてない」



人柱力に自由なんてもんはいらねえんだ。
ビーは八尾に向かって言った。


ビーは里の中での自分の立場がわからないほど馬鹿ではなかった。

しかし本当にちょっとだけ、という気持ちだった。


修行、修行、修行、最近は何を思い出そうとしても修行しかない。
それか戦闘。

混乱に生じて里を抜けだしてしまえと思ったのも出来心だったが、前々から思っていたことだった。

修行漬けの毎日がサブちゃん先生のところに行った時からガラリと変わった。
短かったが本当に楽しかった。

久しぶりに自由に遊べたと思ったらこれだ。

それでなくとも修行中にいきなり写輪眼の奴が現れてわけもわからぬまま襲われて疲れていたというのに。

更に暁の奴にも襲われてチャクラを奪われて殺されかけた。
サブちゃん先生やポン太も危険な目にあわせた。


ビーはそんな生活にうんざりしていた。

自分が動けば誰かに必ず迷惑がかかる。
人柱力なんだから当たり前だ。

行動を制限され過ぎて、何をしたらいいのかわからない。
そんな状態になっていた。

最近の遊び相手は八尾。


もうどうだってよくなった。

だがビーは雷影の左腕がなく、ジェイが死んだことに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
後悔しかできない。


「ブラザー」
「なんだ?」
「ごめんなさい」
「……」
「もう…逃げたりしねーから」
「よかった」
「?」
「お前が生きてて、よかった」
「…!」


右腕でビーの頭を痛いぐらいの強さで撫でる雷影の顔をビーは見ることができなかった。

見たら泣いてしまいそうだった。


「お前は生きてた。ジェイも報われる」
「でも…」
「いい。それで」
「…」
「だから、オモイとカルイの前ではそんな顔するな。里のみんなには笑っておけ」
「うん」



ビーは少しだけ笑うと、足を引きずるように歩いていた足を強く地を踏みしめるように動かし始めた。





 
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