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「いきなりなんだけど」


いつもより真面目な声のビーにエーと雷影は昼食を口に運ぶ手を止めてその先のビーの言葉を待った。

普段ではなかなかないほどの静けさだ。



「いや、そんな真面目に聞かなくていいんだけど」
「お前が真面目なんだ、真面目に聞かないと悪いだろう」
「…まぁいっか。……いきなりなんだけど、オレやっぱり『ビー』で良かったって思うんだ」
「…」
「幸せだなって思うんだ」


な、大したことじゃないだろ?と笑ったビーの頭をエーが強く撫でる。

少し痛いぐらいの力で撫でてくるエーの顔もビーと同じように笑っていた。



「お前にそう言ってもらえることが、オレ達にとって一番の幸せだ」
「あぁ。お前のことはワシらが護ってやる。だから」
「安心して生きろ」


二人から言われた言葉に、ビーは再度幸せだなぁと思うしかなかった。





****





「いいか…お前達は二人揃うと本当にやっていいことと悪いことの区別がつかなくなるらしいが、もうちょっと落ち着いて行動せんか!」


雷影の怒号に目の前で正座しているエーとビーは耳を塞ぎたくなったが、そんなことをしたら今度は耳元で怒鳴られるかもしれないので大人しく両手は膝の上に置いていた。

ひとしきり雷影が怒鳴った後、ビーは言い訳を口にした。


「あのな、窓ガラスをぶち破ったのはブラザーなんだぜ」
「お前がそっちから行った方が早いって言ったんだろビー」


お互いに責任をなすりつけ合おうとしている二人を見て雷影はもう呆れてしまった。


「そんな理由で窓ガラスを割っていいと思っているのかバカモン共が」
「う…ごめんなさい」
「…悪かった」
「エー、お前は後でさらに説教だ」
「何!?」
「上から目線で謝るな」


正座しているエーを上から睨みつければ、あっさりとエーは「ごめんなさい」を口にした。

三人がいる部屋は雷影の執務室である。
しかし、さきほどから強い風が部屋の中に入ってきてしまっていた。
それの原因を作ったのがこの2人だ。


粉々になった窓ガラスは雷影の秘書がせっせと片付けているが、破片は至る所に散らばっていて終わる気配はない。
執務室から出て行ったのでほとんどの破片は外へ落ちて行ったが、細かい破片は風のせいで中へと入ってきてしまっていた。


外、つまり山の中へと落ちた破片も見回りの忍が片付けるしかないのだ。



「お前達も手伝え。破片1つでも残ってたら拳骨だぞ」
「ウィー…」
「あー…」


雷影に正座で叱られてすでに一時間近く経っている。
普段あまりしない正座のせいで足が痺れてしまっている二人の動きは傍から見たらかなり滑稽だ。


「うおっ」
「ビー、気をつけろ」


ビーの感覚のなくなった足が突然ガクンと折れ、目の前でしゃがんでほうきを使って破片を集めているエーの背中にぶつかってしまった。

その横にはまだガラスの破片が散らばっている。


「あぶなかったー」
「オレがここにいなけりゃ今頃顔面血だらけだぞ」
「うん、助かった!」


しかしビーはエーの背中に乗ったまま動こうとしない。

エーが抗議すると、またビーの口から言い訳が出てきた。



「だって実行犯はブラザーだぜ」
「いいか、時と場合によっては指導者の方がいけないこともあるんだ。あの時はオレがどうしたらオヤジの執務室から下の階の忍達へ書類を早く届けられるか悩んでいたところだった。つまりお前はオレの急がないといけないという状況につけこんでガラスを破れと言った。あの時のオレは正常な判断ができていなかっただけだ。よってお前が悪い」
「まさか本当にやるとは思わなかったんだヨー」
「慌ててたんだ、オレは」
「にしてもパニックになりすぎだろブラザー」
「だからな、あの時は…ってえ!!」
「お前達…言い訳はいいから手を動かせバカモンがぁ!!」



結局その後も三回ほど雷影から拳骨を喰らった2人の頭はたんこぶだらけになってしまった。








 
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