□サングラスと尾行
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木の向こう。
岩の向こう。


風を切ったその先に見えた水と岩。



途中から夢中になって走って着いた先はそこだった。



雲雷峡。




ビーが修行以外に訪れる場所の一つだった。


適当な岩の上に立って一息つくと、そこでオモイとカルイのことを思い出した。


無事に着いて来れたのだろうかと後ろを見ると、そこには空を飛行する鷹しかいなかった。


森の中でふっ切ってしまったのかと考えて、ビーは元来た道を戻り始めた。


よく修行で訪れる雲雷峡の土。
他の場所とは違って走りやすい。

また一瞬二人のことを忘れて走ってしまいそうになったが、そこは踏みとどまった。


ゆっくりと辺りを見回しながら歩く。


取り敢えず雲雷峡にはいないようなので少し前の森の中へと戻った。

もしかして森の中で聞こえた転ぶ音。
あの時にオモイとカルイのどちらかが怪我をしたのかもしれない。

普段は仲が悪そうに見えても結構固い絆で結ばれている二人だ。
負傷すればどちらかが担いででも追ってくる。


しかし人一人を担いで追いつけるほど遅く走ってはいない。
それどころか単独でもかなりきつい速さで走っていた。


やはり少しは気にかけるべきだったかと後悔した。


ビーは生い茂る木々の中を進んで行くと、少し遠い場所から言い争う声が聴こえた。


かなり大きい声でわめいている。


瞬間的にカルイだと理解したビーは苦笑いをしながら二人のところへと移動した。



「だから!その怪我じゃ走れないだろ!?」
「うるせえ!テメーに迷惑をかけねえようにしてやるっつってんだろ!」
「それで余計に悪化したらそれこそ迷惑だってば!黙って背負われてればいいんだよカルイは!」
「情けねーだろ!」
「そういう問題じゃないだろ!」
「……落ちつけヨー」
「っビー様!!」
「いつの間に!」


同じやりとりを何度も繰り返す、終わりの見えない言い争いを聞いていたビーが割って入ると、オモイとカルイは吃驚した後頭を下げた。

バツが悪そうにビーから目をそらす二人を見たビーはため息を吐いた。
そのため息が二人には重く感じて、小さな声で謝罪した。



「何で謝る」
「ご迷惑をおかけしました…」
「ごめんなさい…」
「別に気にしてねーよ!とりあえずカルイ!オレが背負ってってやる!」
「えっ!?そんなこと…!」
「いいから!…オモイ、まだ走れるか?」
「はい!」
「ん、よし」


背中の短刀を収入する四角い板のような物をオモイに持たせ、代わりにカルイを背中へ乗せる。

カルイは背負われながらも恐れ多い、と同じことを繰り返し言っていたが、その内オモイとは段違いに速いスピードにはしゃぐようになった。


顔に当たる風の強さと凄まじい速さで通り過ぎていく周りの景色。

右足を捻っていることなど忘れてはしゃぐほどにそれは素晴らしいものだった。




楽しそうに笑うカルイを横目で見ながらオモイはビーのスピードにやっとのことで着いて行っていた。

そしてオモイが一言「カルイばっかずるい」と呟くと、ビーが急ブレーキをかけて止まり、カルイとオモイの順番を変えて二人を背中に背負う形になった。

ビーがオモイを背負い、オモイはカルイの足を持ち、カルイがオモイの後ろからビーの肩へと手をまわし、かなりきついながらも二人を背負うことができていた。


二人を背負っていてもビーの速さはあまり変わらず、風を切るスピードはオモイを興奮させた。



「すげー!」
「ビー様すげー!」
「当たり前だぜ!バカヤローコノヤロー!」
「ビー様ー!」
「おー?」
「サングラスとってー!」
「答えは……!」
「答えは!?」
「ノーだぁー!!」
「あはははは!ちくしょー!」
「ちきしょー!あはは!」


そのまま森を抜けて病院へとカルイを届け、オモイはそれに付き添った。


ビーはふらふらと歩きながら家に帰り、久しぶりに弟子達と遊んだ今日のことを思い出しながら眠りへと落ちた。















次の日、サムイに伝えられていた任務をすっかり忘れていたオモイとカルイは雷影にきっちり絞られ、それに関わっていたビーはさらに怒られることになった。








 
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