dream

□知らなければよかった
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※平助視点

彼女の強気で弱音なんか吐かなくて常に笑顔でいて、でも本当は弱い。凄く脆くて、強がっているだけで、心で泣いてるんだ、と気づいてから惚れた。それから目で追うようになって、暇さえあれば会いに行って。巡察の帰りには、彼女が好きな金平糖を買って帰って。それを渡しに行くと綺麗に笑うんだ。その笑顔が大好きだった。
でも、彼女が選んだのは俺じゃなかった。とっくに分かっていた。俺が彼女のことを目で追えば、彼女は総司のことを目で追っていて。俺が会いに行けば、隣には総司がいた。
気づいていても、辛いのは辛いわけで。でも惚れた女には幸せになってほしくて、必死に笑って祝って。そしたら彼女がまた綺麗に笑うから、胸が締め付けられて。でも、やっぱりその笑顔が好きなんだと痛感して。その笑顔を守りたくて。総司といて笑ってくれればいいと思っていた。


なのに、彼女は最近心から笑わないんだ。


「ほら、土産買ってきた。」
「あ、平助おかえり!巡察お疲れ様。また買ってきてくれたの?」
疲れがあるのか、悩みがあるのか、馬鹿な俺には分からない。でも、やっぱり、
「ありがとう。」
彼女は笑うんだけど、笑ってなくて。見た目は普段の綺麗な笑顔と同じなのに。違くて、瞳の奥に、心の奥に強い悲しみを感じて。前とは違う胸の締め付けを感じて。苦しくて、悲しくて、助けてやりたくて。
「なあ、一緒に金平糖食べようぜ!」
「…うん!」
出来る限りの力で笑いかければ、彼女も笑ってくれて。それが前の綺麗な笑顔に少し近い気がして、嬉しかった。


「それでな、左之さんがよお」
「ええ!そんなことあったのー?」
少しだけでも彼女が笑顔でいてくれて、嬉しかった。
「あ、お茶ないや!持ってくるね。」
「おう!」
彼女はパタパタと去って行った。
あれ、そういやお茶ってさっき煎れたので最後じゃなかったか?探してそうだな。だからこんな時間かかってんのか。言いに行ってやろう。

廊下を途中まで歩いて行くと、縁側のほうを見て辛そうにして突っ立ている彼女。彼女の視線を辿れば意味なんてすぐに分かった。
 何やってんだよ、総司。
 なんでお前が千鶴と片寄せてんだよ。
 顔近付けて笑いあってんだよ。
 お前が恋人だろ?彼氏なんだろ?
 お前が綺麗に笑わせてやれよ。
 笑顔奪ってんじゃねえよ。

相変わらず辛そうな顔で突っ立ている彼女に近づく。
「なあ、」
「あ、平助!その、茶葉なくて、さ。」
「いつからなんだよ、」
「な、にが?」
目に涙を浮かべて聞く彼女を見るのが辛くて話を変えようかとも思ったが、どうしても総司が許せなくて。
「総司とのこと。」
「別に総司も、ち、千鶴ちゃんも悪く、なんかなくて。
 私が、悪いのと。」
涙を一筋流して彼女が笑うから、もう総司と千鶴に対する怒りしか沸いてこなくなって。拳を握りしめ、二人の元に行く。しかし、それは出来なかった。彼女が後ろから抱きついてきたからだ。
「そん、なに!そんなに!総司のことが大事なのかよ!」
彼女の愛の深さなのかと思い、俺は声を荒げてしまう。すると、彼女はゆっくりと前に回ってきて俺を見つめ手を握りながら
「平助に辛い思いをさせたくないの。ごめんね。」
そういって綺麗に彼女は笑うから。俺と総司の関係が悪くなるのを心配してくれたのに気付いて。また胸が締め付けられて。目頭が段々と熱くなって。彼女をそっと抱きしめた。



知らなければよかった



彼女の強さも、己の弱さも無力さも



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0813.私

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