雨の波紋

□第8章 消失
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バタバタ走る音とざわめく声。

炯は腕で汗を拭う。
水浸しになったトレーニングルームの床をボールが弾んでいる。

「何かあったのかな…?」



第1話  



廊下を覗き込むと、奥の部屋に人が集まっているようだ。


「食らえデザーム!!」

吹雪が次々とマシンにシュートを打っていく。言動といい、あの目つきといい、これは…アツヤだ。


元々気性の荒い感じではあったけど…
なんだかいつにも増して気が立っているような…


「あ、炯先輩」

「…吹雪くん、どうかしたのー?」

「わからないの。みんなで練習してたらいきなりこうなって…」

「イプシロンのキーパーにエターナルブリザードを止められたのがよっほど悔しかったんですね」

「…。」




でも、あの時はあそこまでではなかったような気がする。


…もしかして、染岡くんがいなくなったから?
今、ストライカーが吹雪くんしかいない。

自分が入れなければ、という思いが過剰に強くなっているんだろうか。



「…今は吹雪の思うようにさせよう。あの意気込みが試合に良い方向に出るかもしれない」

みんなは複雑な表情のまま、鬼道の言葉に従うことにしたようだ。それぞれ練習に戻っていく。


吹雪はそれにも気付いていないようだった。
その瞳はただ必死に、ゴールだけを睨んでいる。



自信があって挑発的な彼がこんなにも切迫している…。




炯はしばらくその背中をじっと見つめていた。






『アツヤ、少し休憩しようよ』


忌々しそうな顔で、「うるせえ!」と言われた。
ほんの少し前まで僕が表に出ていたのに、今は内に追いやられてしまっている。


代わりにアツヤが一人、マシンに向かっていた。もうずっとこの調子で、シュートを打ち続けている。




最近のアツヤはやけに強制力があった。

以前は、ほぼ僕の意思で代わっていたのに、気付いたら交代させられている。




焦っているんだろうか。

エターナルブリザードを止められて、アツヤの「完璧」が揺らいだ。



シュートを打たなきゃ、

もっと強く、完璧に…



そんな気持ちが伝わってくる。

――――…いや、僕の気持ちかもしれない。



もっと強くなりたい。


僕がここに必要とされるために。
ここに在り続けるために。



強くなって、完璧になる。


そうしたら、炯ちゃんに伝えよう。

僕の気持ちを…











2011.1.28

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この章からページごと更新にします。
章丸々だと更新に時間がかかるので…。


…と言うわけで、便宜上、話数とタイトルを付けました。邪魔っぽい時は消すかもしれません。
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