雨の波紋
□第7章 交錯
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「ねえちゃん!とうさんが、ゆうえんちつれてってくれるって!!」
「よかったね」
曖昧に笑う。
炯の癖だ。
炯はいつも部屋の隅で縮こまっていて、ほとんどそこから動かない。
にこにこ笑うけれど無口で、本当に喋らない。
元々寡黙ではあった。
父さん達が炯の話をまともに取り合わないから、徐々に口数も減って、いつの間にか自分からは何も言わなくなった。
話しかければ、答えるくらいだ。
「もう、炯もいくんだよ!」
「…おとうさんが、そういったの?」
「え?いってはないけど…
そんなの、かぞくなんだから、いっしょにいくにきまってるじゃないか!」
炯は「かぞく…」と小さく呟いて、さっきまでの笑顔も消えた。
それきり黙っているから、何だか歯痒くなってその手を引っ張った。
炯はビクリと怯えたような顔になって、抵抗する。
「…やっ、だめ!やめて…っ!」
「なんでだよ!?」
俺の手は無理矢理引き剥がされる。
炯は壁にもたれかかって、ずるずると座り込んだ。
「炯?」
顔を窺おうとした時、父さんに呼ばれた。
戸惑っていたら、炯が顔をあげて笑みを浮かべた。
「よばれてるよ?…いってらっしゃい」
「…炯、」
「いいから、はやく。」
そうやって、すぐ笑顔を作る。
あの時俺はどうしたらいいのかわからなくなって、言われるまま父さん達の元へ行ってしまった。
部屋の隅に炯を一人、残して。
父さん達は炯を呼ばなかった。当然のように、3人で出かけていった。
炯は笑っていたけれど。
本当は、どう思っていたんだろう。
トゲトゲ頭がパソコンを叩いている。
頭にツノを立てているから、こんな雨の日はツノが湿気で下を向くかと思えば、ピンと立っている。物凄いたくさんワックス消費してるに違いない。
「なあ、『サッカー、やろうぜ!!』」
振りまでつけて言ったのに、あきれられた。
「明…。円堂の真似なんて、何処で覚えたんだ。」
「雷門のフットボールフロンティア戦のDVDだと思う。俺も見た。」
「正解!!クッキーやる」
「いらない」
即答された。
「お前な…今日は雨降ってるから各自筋トレだって、言っただろう」
「むーケチ!トゲトゲ頭!俺は雨でも平気なのに」
「誰がトゲトゲ頭だ!!」
こいつを怒らせるのはお前くらいだと言われたけど、案外短気だと思う。
俺のせいかな?
「炯なんか、雨の方が練習しやすいって言ってた」
「それは多分お前の姉だけじゃないか?」
「そんなことない!多分!」
「…とにかく、大人しく筋トレしていろ!」
渋々、トゲトゲ頭の部屋を出た。
頼まれてもないのに、クッキーの代わりにチョコを渡して、手伝って貰うことにする。
「いらない」
「…お前、もしかして甘いもの嫌い?」
「嫌いじゃない」
「じゃあ食え。なんなら飴もあるぜ」
「…お前のポケットは一体どうなってる」
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おかし勧められてる奴とトゲトゲ頭は別人です。