last letter

□danGerOus wOrk
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 胃痛と頭痛のダブルパンチなんて、切なくて泣けてくる。

「…あぁ、」

「そう言えばさー、聞いた?王子様の話」

「王子様?あ、ユキくん?!」

「!」

 つい今し方までデートの話で盛り上がっていた女子から、全く違う名前が出てきた。
 ユキ。その名前に、一瞬で全身の血の気が引いてから、ぞわりと身体が粟立つ。

「王子様さ、カノジョ出来たんでしょ?!」

「えー、何それ?!初耳なんだけど?!誰、1年?!」

「そこまではわかんないけど、ネットに書いてたらしいよ?毎日大切な人といれて幸せです…、って」

 途端に絶叫のような悲鳴が響き渡った。それも複数だ。とっさに手で耳を塞ぐ。女子の甲高い声は、耳に突き刺さるように痛い。
 腕で見えないはずの顔をしかめながら、でも気に話の続きが気になって変えたはずの頭の向きを元に戻す。

「誰よ、ユキくんの大切な人って!」

 まず悲鳴からいち早く切り替わった1人目は、明日からデートに行くと話ていた女子だ。
 彼氏がいるくせにユキの大切な人に反応するんだと思うと、女子って怖い。

「王子様と一緒にいるのって、いたっけ?いつも1年の男子と連んでるよね?」

 2人目は、割と穏やかな話し方をする女子。1人目と違うのは、ユキを王子様と呼ぶのに、ミーハーさがあまり感じられない。
 この2人目でようやく、この女子のグループが先輩だということがわかった。席に座るときロクに見ていなかったし、ウチの学校の制服では、見た目で学年の区別がつかない。
 ただこの人のセリフに、オレは心臓が握りつぶされるんじゃないかと思うくらいドキリとした。
 1年の男子。
 先輩達が気付いていないだけで、それは間違いなくオレのことだろう。

「でもユキくんって、意外と年上好きかもよ?大人っぽいし、なんかタメくらいだと餓鬼っぽいとか言いそうじゃない?」

 3人目のセリフは、間違いなく願望が入っている。自分が年上だから、可能性を残しておきたいのかもしれない。
 黙って聞きながら、先輩には悪いけど、ユキは年上をあまり好んでいないです、と伝えたくなった。ユキがモテることに対する嫉妬というよりは、先輩に現実を知ってほしいという思いのほうが強い。

「やっぱり王子様の大切な人って、美人系かなー?本人があれだけ整ってるんだから、並だったらショックー」
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