last letter
□trouBle oN FRIDAY
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思わず口に出しかけて、寸前で言葉を飲み込む。
余計なことを言えば墓穴を掘るだけだと、オレは長年の経験からそれを知っていた。
「あ、うん、気のせいだったかも…。それより由輝がわざわざ学食まで来て、なんか用事?」
注目される回数が多いからといって、注目されたいわけじゃない。
常日頃からそう言う由輝は、人が多い場所に好んで行くようなことは少なかった。
ここは学食で、校内で一番生徒が多く集まる空間だ。余程のことがなければ、由輝は自分から近付こうとしないのに。
素直に疑問に思ったままを口にすると、その秀麗な顔の眉間に、深々とした皺が刻まれた。今度こそ、間違いなく怒っている。
「ちょっと目を放した隙に、ケンが教室からフラフラいなくなるから探し回ったんじゃねーか。手間かけさせんな」
「…え?なんか約束とか、してたっけ?」
俺様の代名詞とも言える由輝のセリフに、あれ、と首を傾げる。もしそうなら、流石に悪いことをした。
「約束なんかしてねーよ。ケンのそういう鈍いトコ、嫌いじゃねーけど時々苛つく」
「はぁ…そりゃゴメン」
舌打ちまでされたから一応謝っておくと、もう一度強く、舌打ちをされた。すこぶる機嫌はよろしくないらしい。
約束してないなら、別にオレがどこに行こうと構わないと思うんだけど。
心の中でだけこぼして、由輝から目を逸らす。ただでさえ金曜日ということもあって気が重いのに、これ以上のものは抱え込みたくなかった。
そんなオレの心中なんかまるで知らない由輝から、盛大な溜め息が聞こえてくる。
全くもって、オレもそのくらいの溜め息を吐きたい気分だ。
「…朝からケンが元気ねーから、心配してんだよ、これでも」
「由輝?」
ボソッと呟かれた言葉の意味を確かめようと顔を向けると、頭の上に何か置かれた。視線を上げるとそれは、由輝の手。
「や、おい…」
「ケンってわかりやすそうで、実は全然わかんねーからな」
それよりも、この頭の上に置かれた手の方が数倍意味わからないから。
ツッコむよりも先に、ぐしゃぐしゃとオレの髪をかき混ぜるようにして由輝が頭を撫でてくる。普段からは想像がつかないくらい、ひどく優しい手つきにドキッとした。男前って卑怯だ。