last letter

□trouBle oN FRIDAY
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 大丈夫、絶対だいじょうぶ。今日はこの間みたく、ちょっとばかり怖いオニイサンが床に寝転がっていることもなければ、修羅場真っ只中のカップルの、特に女の人の方がキレた挙げ句、ナイフなんか持ち出して、男の人に飛び掛かっている現場に遭遇することもない。だから、大丈夫。うん、もしそうだったら、ソッコー逃げよう。

「……おい、…おい!ケン!賢祐ってば!」

「もし駄目なら、警察…はマズイから、隣のおじさんの家で…」

「おいコラ賢祐!!てめぇ、無視ってんじゃねーぞ!!」

 ガツン、と。
 あまりにも鈍い音と痛みを後頭部に感じて、現実に引き戻された。
 頭を押さえながら振り向くと、そこには高い壁のように立ちはだかって上から見下ろしてくる、友達の姿。
 高校1年生にして180センチ越えを果たした彼の名前は、光森由輝。同じクラスで知り合って以来何かと一緒にいる、大事な友達だ。

「…由輝、その…痛いんだけど…」

「俺を無視したケンが悪い」

「無視とかじゃなくて、ちょっと考え事っていうか、その…とりあえず座るか…?」

 ただでさえ長身で目立つ由輝がオレを殴ってくれたのは、金曜日の放課後の学食という、生徒の社交場のような場所だ。どんな生徒がいるかわからないし、誰が見ているとも限らない。
 だいぶ控え目に椅子を勧めながら、荷物を置いて場所取りをしていた椅子に座ると、由輝はオレの目の前ではなく、隣の椅子を引いて腰を下ろした。突いた頬杖の上に顎を乗せ、流し目を寄越してくる様に、周囲の女子からは感嘆の溜め息とか、写メを取る音が聞こえてくる。
 180センチは越えているし、ゆき、と名前の響きは綺麗で、名前に『光』だの『輝』だのときらきらした漢字が入っているだけあって、由輝は非常に整った顔立ちをしている。
 更に色こそ校則のおかげで黒髪、パーマなしだけど、えりあしを短く、前髪が長めのショートレイヤーがベースになった髪型は、同年代の男子生徒からは1歩抜け出たように大人っぽくて、同じ1年生のみならず、2、3年生の女子の先輩からの人気も絶大なものがあった。実際に由輝と一緒に街を歩くと、知らない女の子から声をかけられたり、ファッション雑誌に載せたいから、と被写体になることを求めてくるカメラマンもいたりと、何かと騒がしい。
 そんな由輝だけど、実はとんでもなく俺様な性格をしていることも、ましてや非常に荒っぽい言動をとることも、知っているのは極々親しい、一部の人間だけだ。
 由輝は、見た目はクールな王子様、中身はどSな王様。
 誰が言ったか覚えていないけど、言い得て妙だと、心から思った。

「…由輝、なんか怒ってんのか…?」

「はァ?どこ見て言ってんだよ」

 どこっていうか、あえて言うなら全身から発するオーラ。
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