文の間-Novel-

□★九尾の誘惑
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「小十郎様…」

―――深夜。

寝室で休んでいた小十郎に黒臑巾組の者が障子越しに声をかけた。

「なんだ?周辺諸国に不審な動きでもあったか?」

小十郎が尋ねると忍はいいえと応え、こう加えた。

「先ほど、筆頭が城を出るところを見かけた者がおります」

「政宗様が…?こんな夜更けにどこへ…?……すぐ案内しろ」

「はっ!」

小十郎は怪訝な顔で布団から起き上がり、素早く身支度を整えると腰に刀を差し忍の後を追った。


忍の者が導いたのは、城から歩いて程なくの所にある、古びた稲荷神社の境内だった。

「半刻ほど前、社殿に筆頭が入って行ったきり静まり返っています。」

現場に控えていた別の者の報告によると、政宗は刀も持たず寝間着のままフラフラとここへ来たのだと言う。

時間はまもなく牛の刻にさしかかる。

辺りは闇に包まれ、中の様子は伺い知れない。

「俺が行く。お前達はここで待て。」

小十郎は音もなく社殿の引き戸を開け、薄暗い部屋の中へ入って行った。


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