文の間-Novel-
□★九尾の誘惑
1ページ/7ページ
「小十郎様…」
―――深夜。
寝室で休んでいた小十郎に黒臑巾組の者が障子越しに声をかけた。
「なんだ?周辺諸国に不審な動きでもあったか?」
小十郎が尋ねると忍はいいえと応え、こう加えた。
「先ほど、筆頭が城を出るところを見かけた者がおります」
「政宗様が…?こんな夜更けにどこへ…?……すぐ案内しろ」
「はっ!」
小十郎は怪訝な顔で布団から起き上がり、素早く身支度を整えると腰に刀を差し忍の後を追った。
忍の者が導いたのは、城から歩いて程なくの所にある、古びた稲荷神社の境内だった。
「半刻ほど前、社殿に筆頭が入って行ったきり静まり返っています。」
現場に控えていた別の者の報告によると、政宗は刀も持たず寝間着のままフラフラとここへ来たのだと言う。
時間はまもなく牛の刻にさしかかる。
辺りは闇に包まれ、中の様子は伺い知れない。
「俺が行く。お前達はここで待て。」
小十郎は音もなく社殿の引き戸を開け、薄暗い部屋の中へ入って行った。