primavera【プリマヴェーラ】
□迷子の迷子の子猫ちゃん
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「あれ?アリス?」
背後から、清んだ明るい声が彼女の名を呼んだ。聞き覚えのないその声に、アリスは頭上に大きな疑問符を浮かべながら振り向いた。
「あ、やっぱり!噂通りだな♪」
「あの……?」
「俺の名前は、シャロン。よろしくな♪」
「よろしくお願いします」
へら、と笑う彼に釣られるように、アリスの顔からも自然と笑顔が零れる。
「ところで、こんなところでなにしてんの?」
ブリリアントブルーの瞳が、ここにアリスが居るのが、心底不思議だと言わんばかりに覗き込んできた。
「えっと、少し城内探検に……それで……」
「それで?」
「今、自分がどこに居るのか、わからなくなってしまいました……」
「あっはは!」
しゅん、と落ち込みながら状況を説明したアリスの前で、明るめのカドミウムオレンジヒューの髪を持つ美少年が盛大に噴き出し、腹を抱えて笑い出した。
「そ、そんなに笑うようなところじゃ……」
「あはは、ごめんごめん、ははは……なるほどな」
右手でお腹を摩りながら、もう片方の手で涙を拭っていた。
「何も聞いてないんだ?そりゃ、迷子にもなるわな」
「どういうことですか?」
「ここのこと、なんにも知らないで来て、迷子になんないヤツなんていないって」
「?」
「ここはさ、そうゆうふうになるように、複雑なつくりにしてあんの」
「そうなんですか……」
何も知らずに軽い気持ちで部屋を抜け出した、浅はかな自分の行動が妬ましい。
「意外だな。あの人達のことだから、もう教えてるのかと思ってたけど……まぁ、そんな日もあるさ」
シャロンは悪戯っ子のような笑顔で、アリスの頭を撫でた。
「うん……」
「そんな顔、すんなよ。大丈夫、アリスだけがそうなるわけじゃないんだから。それに、アリスが迷子になってくれたおかげで、今、こうして話してるわけなんだしさ?」
肩を落とし、落ち込んでいれアリスに、今度は優しく、温かい笑顔が向けられていた。
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