primavera【プリマヴェーラ】

□愛しの眠り姫
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二人の男はお揃いの懐中時計を持っている。二人の誕生日に買って貰ったものだろうか。懐中時計にはお洒落な模様が刻み込まれていた。
少女と色白の男との距離が縮まり、少女は自分に向けられているその手に触れようと、無我夢中で手を伸ばした。ところが、彼の手に触れたら触れていないかという所で、景色が一変し、真っ暗な底無しの穴に落ちていくかのような感覚に囚われた。
暫くして、刃物で突き刺されたのではないかと錯覚してしまうほどの強い光が、少女を包み込んだ。






「……ん……」

「あ、おはよう、アリス」


少女の瞳には温かい笑顔の、ハニーブラウンの可愛らしい髪色に、くりっとした瑠璃色の瞳が特徴の男の子が映っていた。


「あぁーーーーーー!」


どうやら少女のお父様は、アルトのようだ。
誰が、少女アリスの父親に相応しいか、真剣に口論していた面々が一斉に叫んだ。


「やられましたね……」

「非常に残念です」

「マジかよぉ……じゃ、アリスのガラスの靴は俺が拾う!」

「なに!?んじゃ、俺は毒林檎からアリスを救う!」

「「じゃあ、僕らは、怖い魔女の呪いにかけられたアリス姫を救う!」」

「じゃあ、魔法のランプは俺のもんな!」

「……俺は、この薔薇の花が散り逝く前に、アリスの心を奪う」

「では、私は………」

「みなさん、落ち着いてください」


今のショパンにはあまり言われたくない台詞だ。顔が引きつって見えるのは、きっと、気のせいではないだろう。それでも、冷静を装う所が、流石ショパンだ。


「アリスが困っています」


一同、一斉に我に帰った。
慌てアリスの方に目を向けると、そこには困り果てた可憐な少女の姿があった。


「あ……あの……」

「ごめんね、怖がらせちゃったよね?」

「……い……いえ……」


天使の羽の如く白い、シルクのように清んだ素肌が朱色に染まった。潤んだロイヤルブルーの瞳が眩しい。


「っと、自己紹介しないと」

「あぁ、そうだな」




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