primavera【プリマヴェーラ】

□いたぁいのいたいの、とんでけ!
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中央に聳え立つ一番大きな塔は王族専用の塔だ。グレンは、よくこの塔の屋上から、城の周囲の景色を眺めている。
この城に近付こうとする者は誰一人として存在しない。どんなに勇敢で頼もしい勇者であっても、この道だけは避けて行くだろう。それほどここは狂っているのだ。






何時しか少年の周りの景色は、自棄に白く、殺風景な場所へと変わっていた。広い廊下には彼の他に、負傷者のもとへと急ぐナースしかいなかった。
少年は、何かに取り付かれたかのようにひたすら走り続けた。コワレてしまったオモチャのように、止まる事を知らない涙を流しながら。






同じテンポを刻み続けていた足音が乱れた。呼吸も儘ならない状態だ。少年は豪快に扉を開け、中へと足を進める。部屋では、少年より少し大人びいた包帯にまみれた青年がベッドに横たわり、黙々と眠り続けていた。


「おにいちゃん……」


そう呟き、少年は青年の寝ているベッドへと崩れ落ちていった。






あれはほんの数ヶ月前の事。両親は流行りの病にかかり、若くしてこの世を去った。両親共に穏やかな性格で、キャラメル色の髪と赤ワインの似合うシェルピンクの瞳がとても美しかった。彼等の息子である二人も、両親の面影を確りと受け継いでいる。一際目を引く花形の二人、年子のウェアラとマーシア。見た目が瓜二つの彼等は、よく双子と間違えられていた。
性格は、確り者で弟思いの兄と、甘えん坊でお兄ちゃん大好きっ子の弟だ。仲睦まじい兄弟。子犬みたいに微笑ましい二人。
両親がなくなった後、彼等は親戚を転々とした。親戚同士、元々あまり、仲が良くなかった事もあり、歓迎してくれる所がなかった為だ。それでも彼等はお互い、「お互いさえ居れば、他には何もいらない」と、共に支え合いながら懸命に生きてきた。
そんなある日、更なる悲劇が二人を襲った。ハートの国の兵隊が誤って放ってしまった銃弾が、マーシア目掛けて飛んできたのだ。それに逸早く気付いたのが、ウェアラだった。


「あぶない!」




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