primavera【プリマヴェーラ】

□プロローグ
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目の前に見えるのは、ヨーロッパかどこかにありそうな、無駄に大きい、沢山の装飾物に飾られたお洒落な門。門の後ろの景色には、どこまでも果てしなく続く、一筋の綺麗な煉瓦造りの道がある。それに添って美しく並んでいる緑豊かな木々と、所々に咲く鮮やかな深紅の薔薇の花が、道を華やかに彩る。
肝心の建物はというと、その影すら見当たらない。ここからでは、その姿形を見る事は出来ないが、この敷地の広さ。外見だけみたら、どこか異世界に迷い込んでしまったのではと、錯覚してしまう。きっと建物本体もボク等の辞書では表現する事が出来ないほどの、代物なのだろう。
ここは街から遠く離れた山の中。悪魔が出ると恐れられ、誰一人として足を踏み入れる事は愚か、近付こうとさえしない、未開拓の森の奥。
ヨーロッパのどこか、はたまた異世界のどこかの豪華なお城としか言い様のない、ボクの目の前にあるであろうこの建物は、「エマーティコ・ジョコラーレ」、略称、「エーレ」。超が付く程有名な集団のアジト。そう、色んな意味で。


…意を決し、門に、また一歩近付いた。


煉瓦造りの温かい道は、小鳥の囀りが響き渡る、木漏れ日が道を優しく照らす森へと続いていた。
暫くして景色が明るくなった。
微かに聴こえる涼しげな水の音が心地好い。瞳を向ければそこには、中世ヨーロッパ風の可憐な花々の彫刻で出来た大きな噴水がある。勿論、お洒落なベンチ付き。まるで絵本の中に飛び込んでしまったかのような風景を見ていると、ここがあの集団のアジトであるという事を危うく忘れてしまいそうになる。


…お城まで、あと少しだ。


どうやらココでは一般常識が通用しないらしい。桁違いの面積を誇るお城も、個々の持つ特殊な能力も想像を絶するものだが、なんでもココにいる人の大半が、「容姿端麗で人柄良好。頭脳明晰で聡明。高い洞察力と反射神経を持つ」と、いうのだ。
そんな白馬に乗った王子様のような人が、この世に存在するのだろうか?


この物語は、そんな彼等の一筋の涙からはじまる。




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