gemello【ジェメッロ】
□麗美
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「そう言えば、自己紹介まだだったね。僕の名前は須亂【シュラン】。宜しくね」
須亂は綺音と水月の手を握った。璃惡は溜め息を吐き、須亂に近付く。
「で、具合はどうだ?」
「見ての通り、元気だよ?」
璃惡、綺音、水月の三人は今、光圀から頼まれたお使い、「須亂のお見舞い」の為、この街唯一の病院に来ている。城のような建物の中は、勿論王宮のような装飾品で彩られている。室内の豪華さも半端なモノではない。医療設備も充実しており、どんな怪我や病気にも適切な処置を施してくれるらしい。光圀の家で、気を失ってる智陽の看病をしている幸翼が、何万回説明されても仮想現実感【バーチャルリアリティー】な世界に居る夢を見ていると言い張るのも納得だ。だが、綺音と水月は夢ではないと確信している。あの感触は本物だ。
「……じー様は元気?」
「あぁ、元気だ。……一度脳外科に連れてきたほうがよさそうだけどな」
「……そっか」
光圀と須亂は親戚で、璃惡と須亂は幼馴染みらしい。良く知った間柄の三人だが、三人が揃う事はない。
「じゃ、またな」
「うん」
「「お邪魔しました」」
三人と朔彌は病室を出た。
扉は自動的に閉まり、壁と同化してしまった。綺音は扉のあった場所に軽く触れた。水月は辺りを見渡す。どうやら、他の病室の扉は隠し扉式ではないらしい。ここだけ、という事だろうか。
四人は歩き出した。
赤い絨毯の敷かれた広々とした廊下に立ち並ぶ彫刻は、気持ちが悪いほど精巧で、写真と見間違えるほどの絵画達は、立ち止まらなければ、その違いに気付けないだろう。
「須亂さんは何の病気なんですか?」
「さぁな。この病院で唯一治せないモンなんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。原因が全く判らなくてね」
日に日に衰えていく病気らしい。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。そして肉体。その速さは尋常ではなく、寿命さえも判らない。
凄腕の術師だった面影は今では微塵も感じられなくなってしまった。
「早く治るといいですね」
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