gemello【ジェメッロ】

□木漏れ日
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青年は「女児だと思われるモノ」を軽く揺すってみるが、反応はない。「死んでいるのでは……?」、そう思った彼は、少女の胸の辺りに自分の手をやった。少女が身に着けている衣類は暖かく、心臓も鼓動している。青年は溜め息をつき、その場に座り込んだ。


「この子、どうしようかなぁ……」


ほおって置くわけには行かない。だからといって、行く当てなんかない。青年は頭を抱えるしかなかった。






中世の貴族が住んでいそうな荘厳な建築物が所狭しと立ち並び、壁を伝う蔦は、鶯色の葉で白い壁を彩る。道は白と黒の大理石で綺麗に舗装されており、丁度、美しい一抹模様を描いている。その道を飾るのは、生きたそれと見間違えるほどよく似ている、巧妙な騎士や騎馬の彫刻。
街から聴こえてくるのは、木々の騒めきと小鳥の囀りが織り成す清音な旋律と、それに色を加える噴水の音。そして、一人の青年の足音だけ。


「んー……」

「ん?起きた?」


瑪瑙【アゲート】色のウェーブのかかった髪を持つ可憐な少女が、青年の背の上で動き出した。青年は背の上の少女に瞳を向ける。


「……はい……?」

「おはよ」


無垢な少女は顔を赤らめ、好青年は明快に微笑んだ。


「俺の名前は幸翼【コウスケ】。お嬢さんのお名前は?」

「……お嬢さん……?」

「……ん?ヘンな事でも言ったかな?」


少女は、硬石膏【エンジェライト】の瞳を丸くし首を傾げ、幸翼も少女の仕草の真似をし、微笑んだ。


「あの……」

「ん?」


少女は俯き、恥ずかしそうに瞳を潤ませた。幸翼は嬉楽な様子で歩き続ける。


「僕……男です」


靴の音が途切れた。冷然な風が、二人を包み込む。


「はい?」

「その……女の子じゃないです」

「え?あ、ごめんね?」


幸翼は疑問符と感嘆符を頭上に浮かべたまま慌忙し、謝罪した。少年は、頬を赤らめ瞳を泳がせている。


「僕の名前は智陽【チアキ】です」


「僕、よく女の子に間違えられるんですよね」と、苦笑した智陽は、ふと、普段より視界が高い事に気が付いた。


「あ、あの!ありがとうございました。もう自分で歩けます」

「そう?」

「……あの、ここはどこですか?」


智陽は大理石に足をつけ、辺りを見渡し、不安げな様子で青年を見上げた。


「……さぁ……俺もわかんないんだよねぇ」


幸翼は眉を潜め、辺りを見渡してみる。代わり映えのない麗采な風景が、果てしなく続いている。
二人は再び歩き始めた。幸翼は今までの流れを智陽に説明しながら、智陽は美観を眺めながら、悠然と歩いている。背後から近付く、黒い影に気付かぬまま。




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