gemello【ジェメッロ】
□灯火
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温和な笑顔を向けてくれている人影は、ほっとした様子で独り言のように呟いた。水月は相変わらずのアホ面で見慣れない人影を見詰めている。
「あの……失礼ですが、貴方は?」
「儂か?儂の名は光圀【ミツクニ】。宜しくの、若いの」
光圀と名乗った強面風のスキンヘッドの御老人は、いかにも異国の住民が身に付けていそうな装飾品に飾られた衣装に身を纏っている。
「俺は水月と言います」
「水月、良い名前じゃの」
黒曜石【オブシディアン】色の瞳を細め、優々な声色で話す御老人に釣られ、水月の頬も緩んだ。
「ほら、綺音、起きて」
「なんだよー……今寝たばっかり……」
眠気眼の綺音は、白魚のように細く白い指で瞼を擦った。「んー……」と唸りながらも綺音は身体を起こす。人気を感じた彼は、まだ開ききらない瞳を部屋の入り口の方に向けた。
「……なつ、あの変……えっと、不思議なコスプレをしているお爺様は誰?」
ふわりと可愛らしく微笑みながら、さらりと毒を吐く綺音に、水月は苦笑した。
「……コスプレではないと思うけど……」
水月は横目でちらりと光圀を見た。彼が知っている、「特殊能力者や非実在生物が登場する、血の香り漂う物語」に出てきそうな、中世欧羅巴の貴族の衣装に似た軍服のようなデザインの衣装だが、残念ながら見覚えはない。
「あの人は光圀さん。ここの家の家主さんだよ」
「家主さん」という言葉に反応した綺音は、藍玉【アクアマリン】とも天晴石【セレスタイト】とも表現出来ない、清浄な美しい瞳を、零れんばかりに見開き、辺りを見渡した。久々に見る、その可愛らしい幼い姿態に、水月は思わず笑いを堪える。
「なつ、ここ、俺の家じゃない!」
「うん、そうみたいだね」
「なつの家でもない、よね?」
「あっはは!」
何時にもなく弱々しく問い掛けてくる綺音がか弱く見え、水月は思わず笑ってしまった。何故笑われたのか理解出来ない綺音は眉を潜め、首を傾げた。
「うん、そうだね」
「……ここはどこ?」
「俺も知らない。光圀さんにきこうと思ってた」
「「……あ」」
二人は光圀に軽く頭を下げた。光圀は優しく微笑んだ。
「ほら、自己紹介」
「綺音です。宜しくお願いします」
綺音は、水月命名「ホスト顔負け!乙女悩殺☆激甘笑顔【スマイル】」を光圀に向けた。
彼等は一見、今時の若者だが、身体能力が高く、武道に通じ、賢く、一家に一台欲しくなるほど何でもそつなくこなしてしまう、本当の意味での天才である。
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