gemello【ジェメッロ】

□灯火
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聞き覚えのないテノールの声が、耳の奥深くで聞こえたような気がした、真新しいシーツを敷いたベッドの上で熟睡していた、黒瑪瑙【オニクス】色のセミロングの髪を持つ一人の青年が、眉間に皺を寄せた。
青年は耳障りなその声が、頭蓋骨に木霊しているような感覚に囚われ、不快に思い、重だるい手で気だるそうに耳を塞いだ。それでも雑音は、青年の脳内を駆け巡る。
まだ幼さを残す青年の顔は歪み、渋々、その紫水晶【アメジスト】色の瞳を開いた。視界は滲み、周囲の景色ははっきりと映らない。世界が白く見えるという事は、今は夜ではないのだろう。
小鳥の囀りが聴こえる。風が木々を撫でる音が聴こえる。鍛冶屋が金槌で鉄を叩く音が聴こえる。あの男の声は、聴こえない。


「……夢、か?」


虚ろな視界の中、青年は納得のいかない答えを出した。夢にしては現実味があり、そして何より、あれがもし、夢なのであれば、本当に気持ちが悪いのだ。


「……はぁ……」


気分悪そうに盛大な溜め息をついた青年は、自分の瞳の上にその腕を宛がった。
真っ暗で何も見えない暗黒の世界が広がる。何処までも続きそうな、深くて暗い闇の世界。
ふと、深く息を吐いた青年は、自分の掛け布団が鉛のように思い事に気が付いた。


「……なんだよ……」


布団から抜け出すように身体を左右に少し動かした。どうやら、彼の身体の上に何かが覆い被さっているようだ。青年は、片手でそれを振り掃おうとした。


「……なつ?」


青年に覆い被さっている謎の生物はあどけなく喋り出し、掃う為に使った手をそっと握ってくる。


「……あや、と?」


「なつ」と呼ばれた青年は歪む視界の中、聞き覚えのある、甘く優しい声色の主の顔を確かめようと、鈍い痛みの走る身体を起こそうと試みた。


「あやと?」

「なつ……」


「あやと」と呼ばれた琥珀【アンバー】色の癖っ毛の青年は、子猫のように、「なつ」と呼ばれた青年の香りを確かめた。


「うん、俺は綺音【アヤト】だよ、なつ」

「……その、なつっての、やめろよ。俺の名前は水月【ナツキ】だ」


嬉しそうに微笑む綺音に対し、水月は不機嫌に、呆れた様子で溜め息を付いた。



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