gemello【ジェメッロ】
□灯火
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「なつ」という呼び方は、水月は「子供っぽいし、女みたいだから」と、嫌がるが、綺音は気に入っている為、何万回と注意されようとも、止める気は更々ない。水月もなんだかんだで、綺音にだけはそれを許してしまっている。
「なつもつい最近までは『あや』って呼んでたくせに」
「……記憶にないな」
嫌な汗をかきながらバツが悪そうに瞳を逸らした水月とは対象的に、綺音は嬉しそうに微笑んだ。
「大体、なんでお前が俺ん家にいんだよ」
水月は綺音の柔らかい髪をそっと撫でた。綺音は気持ちよさそうに、水月に縋り寄っていく。
「んー……?何言ってんの?ここ、俺の家だろ?」
「……は?」
まだはっきりとしない視界の中、水月は懸命に辺りを見渡した。「見慣れない家具が置いてある気がする、という事は、本当にここは綺音の家なのだろうか?……綺音の家にもこんな家具、なかった気がするが……」「いや、待て。ここが綺音の家なのだとしたら、俺はなんでここにいるんだ……?」などとぼんやりと考えているうちに、水月はふと我に帰った。
「……つーか、綺音。邪魔だ、重い」
「んー……?」
「『んー……?』じゃない!」
綺音は避ける所か、水月を逃がすまいと言わんばかりに抱き締めた。今は、此処がどちらの家だとか、景色が見慣れないだとか、そんな事を突っ込んでいる場合ではなかった。どういう訳か身体中に激痛が走る水月にとって、これは拷問以外の何物でもない。
「ちょっ、馬鹿!痛いって……!」
「あったかい……」
涙目になる水月を他所に、綺音は夢の世界へと旅立とうとしていた。
「お前!おい、こら!」
悲痛の声で必死に綺音を引き止めようとするが、どうやらそれは無駄に終わりそうだ。
「綺音!」
「おや、随分と二階が賑やかになったと思ったら。おはよう」
雫が頬を伝った水月は、声のした方、この部屋の入り口に立っている人影を見て、口を開いたまま固まった。
「……お……おはようございます……?」
「元気そうで何より」
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