primavera【プリマヴェーラ】

□醜い家鴨の男の子
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ハートの国の五大貴族の一つであるアルフォート家は、世界的にも有名な公爵の名を持つ、大金持ち一族だ。ありとあらゆる人々から持て囃されて育った、箱入りのお坊っちゃまお嬢様集団。中でも現当主夫妻は、秘宝よりも大切にされ、育った、シアワセモノだ。子宝にも恵まれた夫婦のもとには、長男、次男、三男、四つ子の末っ子の計七名の男の子がいる。コラールレッドの瞳とネープルスイエローの髪を持つ、妖艶な母親に似た、愛してやまない自慢の息子達だ。若干、一名を除いて。
四つ子の中に一人だけ、両親と異なるベビーフェイスの子がいる。ココアブラウンの髪に、大きなシャトルグリーンの瞳の男の子。リリアンだ。
お母様似の美人顔の兄弟達と比べ、可愛いらしさの中に凛々しさがあり、温厚で人当たりが良い。儚げな彼の事を、兄弟は勿論、両親も毛嫌いし、虐めが日常茶飯事だった。心身ともに万人受けする彼は、そこに存在するだけで、親族共のプライドを逆撫でする事となり、虐めは見る見るうちに、その激しさを増していった。使用人の中には、「これは流石にマズイのでは」と、思う者も居たが、自分の主に逆らう事など、出来るはずもなく、見てみぬふりを極め込むしかなかった。
そんなある日、虐め厭きた公爵夫人は、ここのメイド長メアリーに命じ、とうとう彼を家から追い出した。彼の身を案じ、この日が来るまでずっと、密かに彼を支え続けてきたメアリーは、心中で安堵の溜め息をついた。
彼女は公爵夫人の目を盗み、厚手の赤頭巾と籠いっぱいの果実を持たせ、東に行くように諭し、道行く人に声をかけられたら、「忙しいお母さんのに代わりに、森の向こう側に住んでいるお婆ちゃんのお見舞いに行く」と、言うように教え込んだ。彼は立派な男の子だが、いつ、どこで、恐ろしい狼に襲われても可笑しくないからだ。




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