primavera【プリマヴェーラ】
□愛しの眠り姫
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「んー……」
外の賑やかさに、小さなおもちゃ箱のような建物の中で寝ているチェインが眉を潜めた。それでも起きてくる気は更々ないようだ。
「おい、まだ寝てんのか?」
突然明るくなった部屋に、シャインも邪魔だと言わんばかりに眉を潜める。
どうやらお茶会を嗜んでいた面々がこの部屋に集まってきたらしい。
「いい加減起きろ!今日はなんの日だと思ってんだ!?」
「「んー……今日は何日?」」
同じタイミングで可愛らしく瞳を擦りながら尋ねてきた。その姿は、母性本能が擽られるような、あまりにも幼過ぎるものだった。
「あの日、ですよ?」
「……え!?」
我に帰ったかのように飛び起きた二人を見て、フィリアは呆れ混じりの溜め息をついた。
「ようやく起きたか」
「「うん、おかげさまでバッチリ☆」」
「それじゃ、早くベッドから降りてくれないかな?」
普段、「小姓、フィリア」に言われている事を、「傍観者、ショパン」から、穏やかな笑顔付きで言われた双子は、思わず顔を見合わせた。
「「え?なんで?ショパンもフィリア化しちゃったの?」」
「違うよ。ほら、生まれたばかりの雛って、最初に見た顔を親だと思うんでしょ?だから、僕の顔、一番最初に見てほしいの。彼女にとって、特別な存在になりたいから……」
「……雛?」
「「え?そこ?」」
突っ込んだらそこで負けだとわかっていても、双子にとって、今のショパンとフィリアの発言は突っ込み所があり過ぎる。
「あぁ、俺も聞いたことある!でもさぁ、どーせだったら、俺の顔、一番に見てほしい!」
「皆、同じ気持ちだ」
「でもさ、やっぱりここは俺だろ」
「最初に見た顔を親だと思うのなら、私の顔を一番に見ていただくのが普通では?」
「「えー、僕らだって!」」
その頃、部屋の主である少女は、不思議な夢を見ていた。
白兎のように真っ白な肌を持つ黒髪の男が、花畑な真ん中に佇む少女の前を走って行く。少女はその男の後を、当然の事のように追いかけた。
どんなに走っても、中々二人の距離は縮まらない。
ふと、男は立ち止まり、後ろを振り返った。
「おいで?」
男は確かにそう言いながら、少女に手を差し伸ばしている。優しく微笑みかけてくれついるのが、この距離からでもわかった。
色白の男の後ろでは、黒兎のように美しい黒色の肌を持つ男が、少女に向かって手を振っている。「サヨナラ」ではなく、「ココニイルヨ」の合図だ。
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