primavera【プリマヴェーラ】

□いたぁいのいたいの、とんでけ!
1ページ/3ページ



今日もいつものようにココは騒がしかった。また、争い事が起きたのだろう。枯れ果てた男の指示が響き渡った。凛と空気が張り詰める。きっと、数えきれないほどの負傷者が出た。流せる涙など、もう残ってはいない。きっとまた、大切なモノを失った。頭上から燦々と降り注いでくる日の光が、熱い。
突然、先程までとは異なる騒がしさが、一気にカルカッサ・コルサーロを包み込んだ。看守が帰ってきたのだろう。彼等の顔はすぐれなかった。
指示を出していた男を中心に一斉に門に向かって敬礼をする。まるで何処かの軍隊みたいだ。


「お勤め、お疲れ様です」

「あぁ」


看守、ラファエルは、その深紅に染まった冷徹な瞳をそちらに向けることなく、軽くあしらった。返事をしただけ、今日はまだマシな方だ。
彼は何時も、誰一人として近付く事の出来ない、荒々しい雰囲気を身に纏っている。少しでも逆らったモノはその場で跡形もなく、消し去られてしまいだろう。現に、今目の前で幼い少女が蹴り上げられた。彼女は悪い事など一つもしていない。ただ、ラファエルと眼があってしまい、困惑しただけなのだ。
その様子を遠目から見ていた痩せ細った少年が、周囲の目を盗みながら、何処か遠くに走っていった。
だだっ広い廊下をたった一人で、掻き分けながら懸命に。


「もう…いやだよ…」


少年の涙は誰のもとにも届く事なく、彼方虚空へと静かに消えていった。






ここ、カルカッサ・コルサーロ城は、この国を統括している王、グレンが建てた漆黒の城だ。周囲は一面棘に覆われている、見た目からして恐ろしい、異空間。
この城は三つの塔からなり、向かって右側の塔は、総勢四十九名の兵隊の生活居住区だ。隊はドルチェッツァ、アルテラッツィオーネ、トゥリステ、アッレグレッツァにの四つに分けられ、各々の隊には、隊長と副隊長、副隊長補佐が存在し、各々の隊に十名程の隊員が配属される。アッレグレッツァは王族直属の隊で、隊長は王である、グレンだ。
向かって左側の塔は実験室。何の実験をしているのかは、よくやかっていない。わかっている事は、ここが悲劇の出発点という事だけ。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ