私説Ω神話

□双子座誕生
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 「二人とも、準備はいいかい?」
 合図を出す審判役は、元鷲座の魔鈴。
 伝説の五人の最たる伝説を築いた男の師だが、数年前に「後進に聖衣を譲りたい」という理由で勇退し、このパライストラの教師に転身した。
 水瓶座の師弟よりはよほどクールと評判の彼女は審判役にびったりだ。
 本来階級問わず聖闘士を決める最終選考では、合図は軽い演説とともに教皇が自ら行うものだが、今回の選考では水瓶座より「教皇自身の弟子もいることから」「公平公正を示すために」、あえて審判役の聖闘士が出すよう提案したそうだ。
 ーー真相は、愛娘の出場ショックで使い物にならなくなったサガを見かねて、氷河が助け船を出した訳だが。

 
「あなたって、とうとう最後の最後までわたくしの愛に立ち向かおうとするのね」
 いとも妖艶な仕草で肩にかかった髪をかきあげたパラドクスは、仮面の顔を目の前の相手に向けた。
 黒と白の双子座の両面性を表す模様を施された仮面は、彼女のミステリアスな雰囲気によく似合っている。
 「でもどうする気かしらーーあなた、生まれは乙女座でしょう?」

 「・・・」
 「ライア」ーー「アストライア」の一部と英語の「嘘」を表す単語を掛けた偽名を名乗った相手、さやかは静かにパラドクスの視線を受け止めた。パラドクスと正反対にその仮面は没個性な量産品だ。 
 
「・・・君の「愛」はいかほどか、試させていただこうと思って。」
 「あら素敵ね、ついにわたくしの愛に気づいてくれたのかしら?これは愛の告白?」
 パラドクスの声はとても楽しそうだった、しかしその身構えには寸分の隙もない。
  対して、さやかの声色は、平坦そのものだ。
 「いえ。ご心配なく、間違っても告白じゃありませんから。」
 「あら、いっそ告白しても構わなくてよ?私は愛の聖闘士だもの。ずっとわたくしの愛を逆らってきたあなたのことだって、この愛で許してあげるわ?」
 「そうですか、それはどうも。ならば、君の「愛」は双子座の聖衣にふさわしいかどうか、この一戦で試させていただくとしましょうか。」
 「それは構わないけど、どうしてあなたが試すのかしら?本当は、愛しいの教皇様の聖衣をわたくしに渡さないための口実なんじゃなくて?」
 「・・・君以外にこの聖衣を背負える力量のある候補が居たのでしたら、いっそそれもでもよかったのですが、今回の大会の皆さんにはいささか荷が重いようですから。」
 「そう、いいわ。あなたにはずっと前から一度きっちりどちらが上か、わかってもらおうと思っていたのよね。」
 そういい、パラドクスは悠然と構えた、「ライア」ーーさやかもまた、あわせて構えをとる。 
 アザレア色と青み帯びたパール色の小宇宙が、静かに燃え始めた。
 
 「スタートっ!」
 魔鈴は合図の旗を振り下ろすと同時に飛び退く。会場で、黄金レベルの小宇宙が二つ激突して爆発した。





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