私説Ω神話
□00.prologue
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12月も半ば。
下界でも冬の只中のこの季節、「地上にあって天界に一番近い場所」スターヒルはまた一段と寒い、しんしんと冷え込んだ大気は皮膚を刺す。
サガは、腕の中の宝物が寒くならないように用心深くそっ、と抱きしめてやった。出かける前にありだけの防寒服を着せた、もっこりとした小さなは体は緊張しているのかやや強ばっている。
腕の中を見下ろすと、ちょうど大きな青い目もこちらを見上げてきた。
西洋人形のような整った顔はいつも以上の無表情なのに、大きく見開いた目は瞬きもせず頭上の星空を見上げ、青玉のような瞳は星明かりを受けて輝いている。
「星が、いっぱい・・・です。」
たどたどしい口調でつぶやき、小さな手がサガの法衣に包まれた腕をぎゅっと掴んできた。
その愛らしい仕草に思わず口元が緩む。
「ええ、さやか。今夜は星見するぞ。」
「はい。」
愛し子の視線の先をたどるように、サガも夜天を見上げた。
満天。
真冬の凛とした大気は澄み渡り、見上げた星空は眩いほど煌々としている。天を横たわる銀河と、千億の星々が輝きに競う。
絶好の星見日和だ。
どんなに人の世が移り変われようが、星々の輝きだけ常にそこにあった。
古来より、人々は星々から運命の秘密を読み取る方法を研鑽してきた。ことにこの聖域において、星見の秘儀は高度に洗練され、聖戦の起こりから黄金聖闘士候補の誕生至るまで正確を予言してきた。
もちろん、今夜すぐにこの幼子にそのすべてを伝授必要などない。まずは星の輝きに慣れてもらって、星見の概念を覚えてもらえばいい。
こうしてみるとただの幼い娘だが、その本性は星女神とも言われるアストライアの化身である、星との親和性も高いはずだ。おそらくすぐ上達するだろう、サガはそれが楽しみだった。
いや、すぐ上達しなくてもかまわない、ひとつづつ確実にサガの知識を吸収してくれればいい。サガはこの子には自分のもっているすべて知識と技を渡すつもりだ。
強く賢くなれ。忘れ形見となったこの幼女神の養育を引き受けたその日から、ずっとそれだけを願ってきた。