花鳥風月

□つがいのとり
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あるとき


贈り物が届けられた



木箱のなかは玉佩




金と玉で創られたその玉佩は


向き合った
鳥の意匠だった



―――――――



「では新年の郊祀は、このように準備して参りますので」

浩瀚はそっと主を盗み見る

緋色の髪と翠の眸が印象的な女王が書簡の文字を追っている

いつも小ざっぱりとした少年王のような格好でいる彼女。髪は頭頂にくくり、身を飾るものといえばその小さな耳朶に咲く一対の花

それでも、彼女の凛とした美しさは、何も損なわれていない

ただひとつ

彼女の落としたため息を除いては


「今年もその季節になったか…」

再び重いため息が漏れる


主上の悩みの種を、浩瀚は心得ていた
そしてどうやら、主上の傍らに控えている景台輔も



「毎年気鬱になられるなら、普段から襦裙をお召しになればよろしいかと」


台輔が、静やかに、しかし嫌みの如く主をたしなめた


「そんなことしてたら、それこそ毎日転んだり、歩揺を落としたり大騒ぎだ。ケイキだって私がそんな風なら、おちおち前にも進めないぞ」


「日々の努力がありましたらなんとでもなりましょう」


「いざというときに私が動けないと困るだろ」


「そのような時は、主上の手足となる諸官をお使いください」


いつになく言い募ってくる台輔に主上が眉根を寄せる

「なら私は何もせず、着飾って座って微笑んでいればいいのか。そんな人形みたいなのは願い下げだ」


「そういうことではありません」


「じゃあなんだ」


問われて一瞬言い澱む台輔


「私にどうしろと…」


「失礼します」

急に、音を立てる勢いで景台輔は身を翻し、積翠台から飛び出した


「……なんなんだあいつ」



浩瀚がまだ此処に居ることを忘れているような呟きが、ぽつりと漏れる


「…あんな風に言わなくたって」


積翠台の間口を見つめ続けるその表情からは、苦々しさの中にも何処か痛々しさが窺えた



「主上のお気持ちは、何処にありますか」


はっとしたように浩瀚に顔を向ける女王の双眸が酷く揺れている


「…何処とは」


「襦裙をお召しにならない理由です。動きづらい。華美。それだけではないのでしょう」


「……その理由が大半だが」


「けれど全てではない」


揺れる翠を伏せて、王は窓辺に寄る


「言っても…詮無き事さ……」


悲しく呟いた王は、窓から溢れるような潮騒を、じっと訊きつづけていた


答えを問うかのように
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