花鳥風月

□ひのかげ
1ページ/1ページ

いつからか


主が自分を呼ぶ声が、変わった気がした



くっきりとした変化ではなかったと思う
ただ、そんな気がして気になった



声が
響くような
残るような




それから
主に呼ばれることを、心待にするようになった


自分が感じたことが、正しいか確かめたくて





「ケイキ、すまないが少し手伝ってくれないか」


「何してるケイキ。行こう遅れてしまった」



「見てみろケイキ。今年も実りが多いそうだ。よかったな」



何の気なしに自分を呼ぶ声




前の主の時のように、自分に与えられた名で呼ばれるのでないのに
胸にじわりと広がるのは、王に愛されたい麒麟の欲目なのか



以前、主に麒麟の性質を問われたことがあった



麒麟とは
仁の生き物
直感にて王を選定し
王登極の後は宰輔となり、民の声を聞き、王を助ける

王の僕
半身

王の孤独を慰める、王に与えられた祝福




訊いた本人がふうんと気のない返事を返すので、本当は何を確かめたかったのかわからずじまいだったが

自分自信でも感覚でしか捉えられないことを

もしかしたら理解してさえいないことを

改めて口にすると変な気分だった




王がいなければ生きて行けないのも
王が側にあれば安心してしまうのも

それが麒麟の性質だと疑ってこなかった




だが陽子は違う

麒麟の話をしたとき、何故か寂しそうにしていた

その事が何故だか、景麒の心をざわつかせた




王気を感じれば安堵する
姿が見えれば嬉しい
呼ばれればもっと
それが麒麟の性


だがその感情の裏に、不安が付きまとっているのも確かだ


呼ぶ声なく
姿も見えず
王気が途絶え感じられない



あの時の
言い様もない不安が





主の寂しそうな顔は

そんな自分の半身の
無様な不安を憐れに思ったからなのか

麒麟の性から逃れられないことを
不憫に思ったからなのか


何れにせよ
主のそんな表情は
本当は見たくなかった

できれば
慶の民同様
王にも
笑顔でいてほしかった
幸せでいてほしかった







それが
景麒たる存在の
小さな小さな望み




麒麟であることが
主の顔を曇らせないように

いつか
この小さな願いが叶うように




「ケイキ」








主が呼ぶ声は
そんな景麒の思考を
軽々と飛び越えてくる




優しさを孕んだ甘い棘が突きたったように

棘から毒薬が沁み出すように


じわり
じわりと
景麒を絡めとる




けれど自分はそれを
心待にしているのだと





そんな気がした

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ