遙か創作

□渦巻く(譲→望)
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「そっ、そういう将臣くんは傘持ってきたの!?」

「いや。」

「…人のこと言えないじゃん。」

「だな。」

「ぷっ…」

「ははっ」



“笑いかけないで下さい”



「仕方ない!譲!男は走るぞ。」

「えっ?風邪ひくって!」

「大丈夫だっての。オイ譲ー?」


俺は静かに息を吸って、こう口にする。


「ごめん、兄さん。俺、今日 日直だったんだ。」

「は?」

「日誌出し忘れたから、先に帰っててくれ。春日先輩も…せっかく傘入れてくれようとして下さったのに、すみません。……気をつけて帰って下さい。じゃあ。」


そして、俺は逃げるようにその場を去った。


「‥なんだアイツ。」

「………」

「今日は珍しいこと尽くしだな。」

「…ごめん、将臣くん。私、課題出すの忘れてた。」

「へ?」

「英語の…」

「…またかよ。」

「うっ‥だって、あの先生の説明わけわかんないし…苦手だし…‥

「あのなぁ、お前、授業全く聞いてない俺より悪いってどういう訳だよ?」

「授業ちゃんと聞いてるだけ私の方が偉いもん。」

「点数悪かったら意味ない。追加課題出されるほど悪いってどういうことだよ。」

「う〜…」

「で?出しに行くのか?」

「うん。ついでにわからない所教えてもらうから、先に帰って?」

「あいあい、了解。」

「ごめんね?」

「なんで謝んだよ?じゃ、頑張れよ。」

「うん!あ、これ傘‥」

「いい。走って帰る。」

「でも、」

「じゃあな。」

「あ……風邪ひいても知らないよー?」

「大丈夫だって。また明日なー。」


















あれは、いつのことだっただろう?



(…雨、より一層強くなってきたな…)


俺は教室で、黒い空を眺めていた。




いつだったか、春日先輩が言っていた。


『雨は、どこかで誰かが泣いているから降るのかなぁ』


もしそうだとするなら、今は誰が泣いているというのだろう。



(……駄目だな、こんなことくらいで落ち込むなんて。)



俺は醜い。


あの人への気持ちにどう動いたらいいのか、わからない。


強い独占欲。


弱い俺自身。


欲ばかりが強くなって、自分自身が飲み込まれてしまいそうだ。



「譲くーん?」

(っ!?)

「あ、いた。」


春日先輩は俺を見つけてパッと笑顔になる。




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