遙か創作
□渦巻く(譲→望)
3ページ/7ページ
「そっ、そういう将臣くんは傘持ってきたの!?」
「いや。」
「…人のこと言えないじゃん。」
「だな。」
「ぷっ…」
「ははっ」
“笑いかけないで下さい”
「仕方ない!譲!男は走るぞ。」
「えっ?風邪ひくって!」
「大丈夫だっての。オイ譲ー?」
俺は静かに息を吸って、こう口にする。
「ごめん、兄さん。俺、今日 日直だったんだ。」
「は?」
「日誌出し忘れたから、先に帰っててくれ。春日先輩も…せっかく傘入れてくれようとして下さったのに、すみません。……気をつけて帰って下さい。じゃあ。」
そして、俺は逃げるようにその場を去った。
「‥なんだアイツ。」
「………」
「今日は珍しいこと尽くしだな。」
「…ごめん、将臣くん。私、課題出すの忘れてた。」
「へ?」
「英語の…」
「…またかよ。」
「うっ‥だって、あの先生の説明わけわかんないし…苦手だし…‥
「あのなぁ、お前、授業全く聞いてない俺より悪いってどういう訳だよ?」
「授業ちゃんと聞いてるだけ私の方が偉いもん。」
「点数悪かったら意味ない。追加課題出されるほど悪いってどういうことだよ。」
「う〜…」
「で?出しに行くのか?」
「うん。ついでにわからない所教えてもらうから、先に帰って?」
「あいあい、了解。」
「ごめんね?」
「なんで謝んだよ?じゃ、頑張れよ。」
「うん!あ、これ傘‥」
「いい。走って帰る。」
「でも、」
「じゃあな。」
「あ……風邪ひいても知らないよー?」
「大丈夫だって。また明日なー。」
あれは、いつのことだっただろう?
(…雨、より一層強くなってきたな…)
俺は教室で、黒い空を眺めていた。
いつだったか、春日先輩が言っていた。
『雨は、どこかで誰かが泣いているから降るのかなぁ』
もしそうだとするなら、今は誰が泣いているというのだろう。
(……駄目だな、こんなことくらいで落ち込むなんて。)
俺は醜い。
あの人への気持ちにどう動いたらいいのか、わからない。
強い独占欲。
弱い俺自身。
欲ばかりが強くなって、自分自身が飲み込まれてしまいそうだ。
「譲くーん?」
(っ!?)
「あ、いた。」
春日先輩は俺を見つけてパッと笑顔になる。
_