遙か創作

□渦巻く(譲→望)
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雨が降っている。

いろんな色をした傘が、目の前を横切っていく。


(…やっぱり降ったか‥)


俺は今日、雨が振ると天気予報で知っていたのに『40%』という数字を侮ってしまった。


(タイミング悪く、折り畳み傘も家に置いてきたし…)


やっぱり、荷物になっても折り畳みは持ってくるべきだと空を見上げながら考えていた。


「お。譲〜、気をつけて帰れよー。」

「‥あぁ。」


昇降口に立っていると、さすがに虚しくなってくる。


(弱くなったら走って帰ろうと思ってたけど…教室で待つか。)


そう思った瞬間。


「あれ?譲くん。」

「!!」


振り返ると、春日先輩。


俺の…大事な人だ。


「部活は?」

「…今日は、顧問が出張で」

「あー、そういえば山本先生が弓道場の鍵持ち歩いてるんだってね?山本先生の私物じゃないのに…」


先輩は笑いながらそう話す。


「その話、どうして知ってるんですか?」

「ん?山本先生がこの間、古典の時間に誇らしげに語ってたから。」

「そうなんですか…。」

「ふふっ、部員にとっちゃ迷惑な話だよね。」

「そうですね。いちいち顧問呼ばないと弓道できないなんて。」

「先生、出張の時も毎回持って行ってるの?」

「いえ、いつもなら部長に渡して行くんですが、今日は急いでたらしくて。」

「へー、じゃあ今日は部活お休み?」

「はい。」

「これから帰るの?」

「いや…雨が弱まったら帰ろうかと。」

「傘忘れたの?」

「…はい。」

「じゃあ、一緒に帰ろ?」

「えっ?」


その時の、その言葉。

どんなに嬉しかっただろう。


「いいんですか?」

「うん!全然OKだよ。」

「それじゃあ…すみません。」

「はい!」

「あ、俺が傘持ちますよ。」

「え!いいの?」

「はい。」

「ありがとうっ!」


けれど、

その次の瞬間。

些細な俺の喜びは消える。


「あれ、望美に譲じゃないか。」

「?あ。将臣くん。」

「兄さん‥」

「何、お前ら相合い傘して帰ろうとしてたのか。望美ー、お前また傘忘れたんだろ?」


兄は春日先輩の頭をガシガシと少し乱暴に撫でた。



“触れるな”



「ち、違うよ!今日は譲くんが!」

「へぇ、珍しい。でも、『今日は』だもんなぁ?」

「むっ。」

「あははっ、むくれんなよ!」


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