遙か創作

□最愛の人(季あ)
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ふと、自分の身に起こっている出来事は何かの病気なのではないかと思い立って、図書館に足を運んだ。

(…違う…)

だが、どんな書物を見ても、俺に類似した症状などなく。

「なんなんだよ…」

この、胸に積もる恋しい気持ちに

胸を締め付ける切ない感情に

誰かに“会いたい”と思う苦しさに

俺は、答えを出せなかった。















(…前世…か)

図書館からの帰り道。
半信半疑で開いた書物の文章を思い出していた。

(俺の“これ”は“前世の記憶”だというのか…?)

馬鹿らしいと思いながらも、それ以外に考えようがないのだから仕方ない。

(あかねは…恋人の名か…?)

ふと、頬に冷たい滴が当たった。

(…雨…)

曇った空から、ぽつりぽつりと雨が降る。



──季史さん…



聞き慣れた声がまた頭の中に響いて。

(…あかね)

俺の心を締め付ける。



──私のために…泣いてくれるのか…



(…暖かい雨が、私の頬を伝ったんだ。)



──そなたは……優しすぎる…



(あかねが、私のために泣いていた…。)



ああ…私はなんと幸せだろう。

愛しい人に、私がいなくなることを嘆いてもらい、

愛しい人に、救ってもらった…。

ああ…なんと幸せなことか。



「そなたに出逢えて…よかった…」



──…



「…なんだ…今…」

口が自然と動いた。

けれど…俺はあんな話し方はしない…。

「前世の記憶なんて…あったからってどうしろというんだ。」













また、雨が降った。



──季史さん…



あの人の声が、今日は頭の中じゃなく、耳に聞こえた。


(だからなんだっていうんだ。)

そう思いながら、足が声のする方へと向かってしまうのは…何故だろう。





「…ここか…?」

着いたのは、どこにでもあるような住宅街だった。



──季史さん…



何故だろう…。

間違いない気がするんだ。

(しかし、会えたところで俺と同じように相手にも前世の記憶がある訳じゃないだろ。)

そう思っていたら…

声がしたんだ。


「雨が降ると…どうしても思い出しちゃうな…。」


あの人の…
あの少女の声が。


「季史さん…。」


「っ…!」



──季史さん…



(なんでだ…?どうして俺の名を…)



──季史さん…



「…あかね…」
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