遙か創作
□ありえない。(知望)
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「…なんですか?」
私はそう言いながら知盛に向き直る。
「お前…先刻の男を見て、何を言った?」
「はい?」
(さっきの男って、誰。)
この部屋には、言わずとも、私たち以外には誰もいない。
「…あの…画面の中の男だ。」
「?…あぁ、テレビ?」
知盛は今だ、横文字(カタカナ)が苦手だ。
(テレビに出てた男の人……あぁ!!)
「木村●哉?」
「…………」
芸能界の有名イケメン代表アイドル(?)の名を出した途端、知盛の顔が不機嫌になる。
(…なんで?)
「そいつに、何と言った。」
「?カッコイイ?」
「…………」
知盛の顔がもっと不機嫌になった。
(なんなの?!)
「お前は…俺以外の男には、言うのか?」
「何を?」
「………」
「……え?何。もしかして…言ってほしいの?!“カッコイイ”って?!」
知盛は私の言葉を聞いて、不穏なオーラを出し始める。
「ご、ごめんごめん!怒ることじゃないでしょ?!」
「……言わずとも…分かっているさ。」
「は?」
「お前の声、熱、肌…全てから…俺に酔っている、と分かる。」
「はぁ?!」
(この人は一体なんなの?!)
一緒に住むようになって半年が経つが、私は今だに知盛の考えていることが掴めない。
(つまり…“カッコイイ”と言ってほしい訳ではないの?)
「…どうした?」
「いや…珍しくヤキモチとか妬いてくれたのかと期待した私が馬鹿だった…」
「………」
(そうよね…知盛がヤキモチなんて妬くはずがないって。馬鹿だ…私。ていうか、そもそも芸能人にヤキモチ妬くのもどうよ?って話?)
俯きながらそんなことを考えていたら…
そっと、額に温かいものが触れた。
「…へっ…」
驚いて、俯いていた顔を上げると…
「黙っていろ。」
次は、瞼にそれが触れた。
「ちょっ…な…」
「…黙れ。」
私はその優しい口付けに、戸惑ってしまう。
だって…
(今まで…こんなキス…されたことない…)
いつも獣のような、噛み付くようなキスばかりで。
「知も…」
こんな優しいキス、知らない。
「黙れと言っただろう。」
なんで?
なんでいきなり優しい訳?
しかも、
さっきまでの不機嫌さはどこに?
「知盛っ、ちょっ…ストップ!」
私は
額に、瞼に、頬に
優しい口付けを降らし続ける知盛に制止をかける。
「……なんだ。」