遙か創作

□恋情(頼久→あかね)
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『龍神の神子』

それは何よりも清らかで、汚れを知ることのないもの。









「頼久さんっ!」


名を呼ばれ、振り返ると『龍神の神子』がこちらへ駆けてくる。


「神子殿!そのように走られては‥」

「っと、えっ!?」

「!!」


『神子』は何かに躓いた様で、身体が倒れそうになる。


「!」

「わっ」


私は急ぎ、『神子』の身体を支えた。


「びっくりしたぁ…あ、すみません、頼久さん!」

「いえ、お謝りにならなくとも良いのですが…」

「?」

「…お気をつけ下さい。」


『龍神の神子』は私が思っていたものと、何かが違う。


「ご、ごめんなさい…。」


小柄な少女…

というのは見て分かることだが、内面的なものが…

思っていたものと、まるで違うのだ。


「それで‥神子殿、何か御用がお有りで?」

「あ!そうでした!これ見て下さい!」


そう告げると、『神子』は小さな手を広げて何かを見せた。


「…?桜の花弁…ですか。」

「はいっ!」


そこには、両手いっぱいの桜の花。


「…それで…これが何か?」

「で、これを……えい!」


『神子』は両手を上へと上げ、桜の花を舞わせた。


「……」

「花吹雪〜♪」


私の頭上で。



『神子』は笑みを浮かべている。


「‥神子殿、これは…」

「すっごく綺麗じゃないですか?」

「いえ…それはそうですが…」


私には意味がわからなかった。


「頼久さん、前しか見てないから、あそこにあった桜の木にも気づいてないかなぁって思って。」

「…気づいておりましたが。」

「え。あ……そうですよね…。」

「?」

「ごめんなさい。」

「神子殿?」

「頼久さんって、いつも私のことを気にかけてくれてて、余所見してるとこ見たことないから…えっと…」

「神子殿をお守りするのに、余所見などしていられません。」

「それでも、桜の木ぐらい気づきますよね…そこまで視界が狭いわけでもないし…」

「…? たとえどんな場所からであれ、敵の気配に気づいていなければ、貴女をお守りできませんから。」

「気配…」

「それに」

「?」

「あちらの桜は神子殿がこちらの世界に来られる前からあります故」

「あ。…そうですよねぇ…知ってて当たり前…」


(………)


『龍神の神子』は何よりも清らかで、汚れを知らぬもの。




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