遙か創作

□生きて。(知望)
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夢の中で女が言う。


『生きて』と。


俺はただ無言で

その女の美しさに翻弄されていた。



「知盛ー」



俺を翻弄させる女など、この世にいるはずがない。


ならばあれは、
この世の女ではないのだろうか。



「知盛!!さっさと起きろ!」

「………」

「知…」

「‥騒がしいぞ…兄上」

「なんだ、起きてたのか。珍しい。」

「……この世のものではない女に気をとられてな…。」

「はぁ?意味わかんねぇぞ。」

「‥兄上こそ…焦っている様だが?」

「その“兄上”っての、やめろ。…熊野に行くぞ。」

「…クッ…女漁りか?」

「バカ言ってんな。後白河が熊野に向かったらしい。」

「熱心なことで…」

「ほら、行くぞ。」





















「雨…か。」


突然降り出した雨に、木の下で雨宿りしていた。


(…走るか……?…ダルイな…)


「なんでいきなり雨なんて…っ!」


今降っている雨のように、突然聞こえた女の声。


(…夢の中の女と似た声色だな…。)



『生きて』


そう何度も俺に言っていた、夢の中の女のような、力強くも女らしさをもつ高い声。


「雨宿りするかぁ…」


普段なら、会話など面倒で。

それは知った顔にも、知らぬ顔にもそうであった。


その俺が。


この女と言葉を交わし、熊野を共に廻るなど。


















「白龍の神子殿だから、か…。夢のせいか…」

「何がだ?」

「いや…?」

「つかお前、最近やたら寝起き良くないか?」

「…?」

「いや、なんかあんのかなって。」

「クッ……お優しい。心配してくれているのか‥?」

「気持ち悪いこと言うな。…本当に変わったのは寝起きじゃなくて、女の趣味だな。」

「‥‥何だ」

「アイツに……望美に会ってから、お前、女の趣味変わっただろ。」

「…そうか?」

「あぁ。まるで望美みたいな髪の長さで、」

「なんだ、お前こそ…似たような女ばかり抱いているだろう…?」

「それ、アイツに言うなよ。」

「……アイツとは…“白龍の神子殿”のことか?」

「…そうだ。」

「‥ただの“性欲処理”というもの、だろう?」

「黙れ。」

「クッ…随分と、ご執心で。“幼馴染み”とやらは、そんなに大事か‥?」

「…それ以上の存在だから、欲を処理すんだろ。」



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