コルダ3創作

□君が為(天宮+小日向)
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せめて、

君が

泣かないように。

















「‥ストップ。」

「はい」


僕が声を掛けると彼女は素直にヴァイオリンを弾く手を止める。


「ここ、またテンポが速くなっていたよ。」

「あ…すみません、次こそはちゃんとします!」


譜面を指差し指摘しても、素直に反省する。


「うん。じゃあ、少し、休憩しようか。」

「え?でも」

「休憩も、練習には必要だよ。」

「…はい。」


素直過ぎて、

心配になる。



















「君は」

「ふ?」


休憩中、ふいに話を振ったせいか、ちょうどペットボトルに口をつけたところだった様子の彼女の返事は変なものになった。


「…素直過ぎて、それが音に出るよね。」

「へ?…そう、ですか?」

「うん。だから、素直に音を楽しんでる時はまだいいんだけどね。」

「はい。」


真面目なアドバイスだと捉えたのか、姿勢を正す彼女。


「落ち込んでる時もそれが表れる。」

「……」

「自信がない時は、それで頭がいっぱいって感じで。」

「…はい…」


図星だったのか、どんどんと頭が下がる。


「…自分の演奏に、自信がない?」


そっと、限りなく下がっていきそうな頭に触れて聞いてみれば、


「自信なんて、ないです。」


消え入りそうな声でそう返してきた。


「もっとヴァイオリンが上手くなりたくて星奏学院へ来たのに、オケ部で足を引っ張ってばかりで…上達なんてまるで。」


彼女が、自嘲してみせたのとほぼ同時に、一粒の涙が溢れ落ちた。


「…ヴァイオリンが、音楽が…大好きなのに。それだけじゃ、ダメなのかなって…最近、不安で。」


きっと、

全国大会を前に、いろいろ追い込まれて、混乱しているんだろう。


「ヴァイオリンを弾くことは、楽しくて、好きなのに、弾いてると…“これでいいのかな”“こんなんじゃだめだな”っていう気持ちが」

「わかったよ。」

「…ぇ」

「わかったから、もう言わなくていいよ。」

「……」


愛想も何もないような慣れない手つきで、頭を撫でる。


「すみませ…天宮さ」

「喋らなくていいよ。…大丈夫だから。」

「‥ありがとう、ございます。」


“大丈夫”なんて、

なんの根拠もないのに。

ただの気休めでしかないのに。
















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