コルダ3創作
□焦燥(火積→小日向)
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「火積くん」
「‥あぁ、あんたか。」
まだ見慣れない横浜の地で、行くあてもなくふらりと立ち寄った公園。
一曲吹き終えた俺の前に現れたのは、星奏学院の小日向かなで。
「惜しいなぁ…」
「?」
「あともう少し早かったら火積くんの演奏聴けたのに。」
「……俺の演奏なんて、聴けなくても支障はないだろ。」
「でも聴きたかったの。」
「……」
小日向の真っ直ぐな目には、時々俺でさえ、負けてしまいそうになる。
「…小日向は、」
「ん?」
「練習か?」
「ううん。今日は響也くんと約束があって。」
「……………そうか。」
一瞬、ズキリと胸が痛んだが、気づかないふりをする。
「でも、響也くんってルーズで。約束の時間通りに来ることって珍しいんだ。だから、私もたまにはゆっくり行こうかと思って…でも、そしたら火積くんの演奏聴き逃しちゃった。」
小日向は“残念”と呟きながら、肩を落とす。
「‥いいじゃねぇか。本当の目的は、待ち合わせなんだろ?なら、さっさと行け。」
「うん…火積くん、練習頑張ってね!」
「…あぁ」
笑顔で手を振り去って行くあいつから、俺は何故か目を離すことが出来なかった。
「…積くん」
あいつの声がする。
「火積くん、起きて?風邪ひいちゃうよ‥」
「‥ん…」
声に導かれるように目を開ければ、
「あ、よかったぁ。」
俺と目線を合わせるようにしゃがみ、ほっと安心したような笑みを浮かべる小日向の姿。
「……小日向?」
「うん。火積くん、いつから寝てたの?夏だからって言っても、もう日が落ちてきたし…」
(…俺も、知りたい。いつから寝てたんだ…)
「ここ、太陽が隠れるから気持ちいいもんね。うとうとしちゃうのもわかる。」
クスクスと楽しげに笑ってみせる小日向を見つめながら、俺は態勢を直す。
「……普段ならこんなことねぇんだが。」
「疲れてたのかな?」
「………」
多分、違うだろう。
でも、考えを巡らせていたら、いつの間にかこうなっていた。
「……そういや、あんた…約束があったんじゃねぇのか?」
「もう済んだよ?だって、あれから4時間は経ってるんだから。」
小日向が“さては結構前から寝てたね?”と苦笑する。
「…帰るとこか。」
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