遙か創作

□ありえない。(知望)
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「…あのー…知盛さん?」

「……なんだ。」

「…身動きがとれないんですが。」

「……そうか。」

「…………」

(『そうか』って…。)

私は今、知盛に背中からガッチリ抱きしめられてます。

ついでに言うと、知盛がベッドの上にいて、私はベッドの下に座ってテレビのリモコンを手にしてます。

「…はぁ…」

「…………」

「…起きるなり甘えたサンですか。」

「誰の、ことだ…?」

「知盛。」

知盛はついさっきまで寝てて、突然何か思い出したかのように起き上がったと思ったら、ベッドに座り直し、テレビを観ていた私に抱きついてきた。

「クッ…俺が、甘えている…と?」

「甘えてるじゃない。」

「………」

「?」

知盛は無言になったかと思うと、より強く私を抱きしめる。

「ちょっ…ホールディングですか?!バスケだと反則ですよ?!」

(ということは私はボール?)
なんて馬鹿みたいなことを考えながら、茶化すように返す。

「………」

「…?知盛?」

なんのツッコミもないので(ツッコむようなノリがいい男でもないが)不思議に思って声をかけると

「黙れ」

と小さく呟いた。

(…なーんだかなぁ…。機嫌いいのか悪いのか分かんない…。どうしたんだろ?)

「…いやな夢でも見たの?」

「………」

「…ねぇ?」

「…黙れ、と…言っているだろう。」

「………」

背中から抱きしめられているから、知盛の表情が読みとれない。

(うーん…)

声はいつも無機質だから、声色で判断なんてできるものではなく。

(いつもなら寝起きはぼーっとしてるし…かと言って、私何かした覚えないし…)

「知盛…怒ってるなら、ちゃんと言ってくれないと分かんないよ?」

知盛からの返事は一向に返ってこず、部屋にはテレビの音が響く。

「…切れ。」

「は?」

何も言わないのかと思い、諦めかけていたら、知盛は私を抱きしめる腕を緩めてリモコンを指差す。

「…テレビ?」

「あぁ。」

「…はぁ。」

私は指示された通り、テレビを切る。

「切りましたけ…どっ?!」

そう言おうとしたら、またガッチリホールディング。

「…何?」

「…何がだ。」

「テレビ切って…何?」

「……こちらを向け。」

「いや、こんなにしっかり抱きしめられてたら無理ですって。」

「………チッ」

知盛は舌打ちをして、仕方ないというように腕を緩める。
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