遙か創作
□05.客と店員(譲望)(お題)
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多分、一目惚れだった。
「いらっしゃいませ!」
あの日は友人と待ち合わせしてて、突然雨が降ってきたから、待ち合わせ場所をココに変えたんだ。
「お好きな席へどうぞ♪」
それまで、店があることさえ気づかなかったほどの小さな喫茶店。
どしゃぶりの雨の中、ふと目をやると、小さいけれど暖かい光が店の入り口に灯って、どこか惹かれた。
店の中に入ると、コーヒーの香りが漂って、どこか人間味のある店内が一瞬で気に入った。
けれど、一番に目を惹かれたのは…
「いらっしゃいませ!お好きな席へどーぞ!」
大人っぽい雰囲気の中で、まるで無邪気な子供のように笑う、あの人だった。
席に着くと、あの人が注文を取りに来る。
「今日は何にします?」
「…いつもので。」
「ふふっ、かしこまりました。」
“いつもの”で通じるのは、俺がこの店の常連だから。
「お待たせ致しました。」
俺の目の前に“いつもの”ブルーマウンテンが置かれる。
「ありがとうございます。」
「あと…これ。」
「え?」
いつもならここで去って行くあの人が、今日はニコッと笑って俺の前にまだいる。
そして、『他の席の注文だろうか』と思っていたケーキが、おぼんから俺のテーブルへと置かれる。
「いつも来てくれるんで、おまけです☆店長にはナイショですよ?」
口元に人差し指を立てて、コソコソと話すこの人が、とても可愛いと思った。
「…いいんですか?」
「はい!感謝の気持ちですから♪」
「……ありがとうございます。」
「コレ、私のお薦めケーキなんですvv甘さ控えめで美味しいですよーvv」
「……」
多分、一目惚れなんだと思う。
「それじゃあ!」
この店に来たのは、単なる偶然だったのに、俺はあの日からいつものように、この店に来るようになった。
もちろん、この店のコーヒーが美味しいからというのもあるけれど、一番の理由はあの人がいるからで。
どこが好きかとか、どうして好きになったとか、そんなのはよく分からない。
けれど、確実にこれは恋だ。
「ありがとうございましたー♪」
会計を終えて、あの人がニコッと微笑み、そう言う。
けれど、俺はまだ帰れない。
「あのっ、話があるんです!」
「え?」
そう。大事な話があるからだ。
「…今、仕事中なので…後でもいいですか?」
「全然いいです!」