□若者と骨董品
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ア/ンソ/ニーはまな/す写真/館の物語という児童書のパロディ。ちょっとファンタジーなお話です。ご存知の方は握手して下さいというか、すみませんごめんなさい(土下座)本筋はあまり変えてませんがちょこちょこ変えてるとこもありますし文体は全然違います。あと殆どゴト+タツ。諸々大丈夫な方はどうぞ。










この海辺の町に百年以上続く、良く言えば歴史ある、ありていに言えば古い写真館はあった。その名を藤見写真館と言う。
ショーウィンドウには白いドレスの花嫁、成人式の振袖を来た女性、袴姿の愛らしい七五三の少年、等々の写真。そしてその脇に淡々とした証明写真のサイズの説明が、その見本と共に掲示されている。
要するところ、ごく一般的な町の写真館というやつである。
何故この写真館が藤見かと言えば、すぐ裏向かいに立つ旧家が昔からえらく立派な藤棚を作り続けてきたからであり、この店の主の名が後藤だからである。半ば駄洒落ということだ。
果たして近頃この店を継いだ五代目の「後藤」はといえば、店の奥にある本来スタジオである一室でぼんやりとしていた。
この後藤は別に進んでこの店を継いだのでは無かった。何も家業と全く違う道を歩もうと思っていた訳ではない。現に彼は写真専門学校を卒業してここにいる。
ただ、若さが故に「フォトグラファー」だの「カメラマン」だのというアーティストの形に憧れを持っていたことと、覚悟も何もある前に彼の父が急逝してこの店を継ぐことになったこととが主に彼をぼんやりとさせるのであった。もとより明かりを点けなければ昼でも暗い部屋なので、後藤の憂鬱な気分はといえばよくよく演出されるのである。猫が夏場に家中にあって一番涼しい場所に気付くといるように、気鬱の後藤も勝手に薄暗い部屋におさまっていた。

「こんな古い写真館継ぎたくなかった」

そんな後藤が薄暗い部屋で薄暗い顔でぼんやりと呟くのは、まあ誰が聞くにしろ少々鬱陶しいのに違いない。

「こんな古い写真館継ぎたくなかっただって?オイオイ、そりゃバチがあたるぜ後藤」
「親父が急に死んだりしなきゃこんなことにはならなかったんだ」
「そりゃあお前の父ちゃんが急に死んじまったのは俺も残念だし、お前がそれをすぐにはちゃんと受け止められないのも仕方のないことだけどさあ」
「大体俺は雑誌社に就職が決まってたかもしれないのに」
「そいつはただの“かもしれない”だろ」
馬鹿言え実際もう一次試験には受かってたんだと反射的に言い返そうとしてから、後藤は今更思い当たった。おい待て、さっきから会話している相手は誰だ?実に今更である。
まだ開いてもいない写真館、明かりも付けていないここに後藤以外の人間が居るはずが無かった。不審者か、いやでも今までそんな気配があっただろうか。そんなはずは…。
振り返れないまま後藤が硬直していると、再び、多少訝しげな声が聞こえてきた。

「後藤?聞こえてんだよな?」

その声にバッと振り返った後藤は再び硬直した。
そこに居たのは声に聞こえた通りの若い男であった。どうということはない、身形もごく一般的なシャツにズボン。
ただその姿に、背後に置かれた飾り棚の古い古いカメラが、カーテンの隙間から差し込む陽光で透けているという一点にあって、その青年は後藤を硬直させるのだった。

「…………」
「おーい後藤生きてる?」

半透明の青年が後藤の顔の前で手を振って見せる。生きてるか?とは余程後藤の聞くべきことに思われた。

「えっ……ゆ、幽霊、とか」
「あ?何俺のこと?しっつれいだなあ後藤、俺は幽霊じゃねーの。言わば精霊?このカメラの。てかやっぱり聞こえるし見えるのなお前」

後藤が我に返り後じさり隅の机にぶつかって思わず少々裏返った声でぶつけた腰の痛みに唸るのへ、その半透明の男はからかうような声音で返事しつつ飾り棚のカメラを小突いてみせた。アンティークカメラだ。この館の出来た頃からずっとここにあるという、古い古いカメラ。

「…精霊っていうか、九十九神ってやつじゃあ…」
「突っ込むところそこか!」

半透明の男はゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。後藤には笑い転げるその男が悪いものにも思えず、けれどもやっぱり半透明なので、とりあえず本人の言う「カメラの精霊」あるいは九十九神というファンタジックな設定を信じる事にした。
それが後藤の、自称カメラの精霊タツミとの初邂逅である。
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