□からから
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別ジャンルで書いた文でセルフ焼直し。
タッツが吸血鬼設定なパラレル。越さんがハンター的な。
コシ…タ…ツ(?)。












果たしてあれは本当に吸血鬼なのだろうか、と村越は思った。そうでない筈は無いのだが。静かである。音の事ばかりでなく、この場所の空気は静謐だ。まるでそれは神のおわす処の様に。

「招かれずとも敷居をやすと跨げるというのはいつ見ても便利そうなもんだなあ。無粋に違いねぇから、いざ自分に許されても俺はそうしないだろうけど」
「うるさい、化物。お前の存在が余程無粋だ」

そのものの声もまた穏やかであり奇妙に甘く少々悪戯げな響きを持っている。悪舌を吐きながらも毒気を抜かれつつある己が村越は愚かしく恐ろしく不安に思われた。あれは殺して良いものか。そんな疑問がほんの一瞬も過る事が問題だ。
あれは化物である。人からすれば化物である。自分達を捕食の的にする有害なものである。身に降りかかる有害を排除するのは当然の事だ、子を成すために人畜の血を吸う小虫を潰す事と同じに。
村越の気に入らない言い方をすればそれは免罪符であるのだが。

血を凝らせ尚深くした様な色の目に見られながら、暮れかけた赤い陽の光を窓越しに背へ受けるその鬼の髪の柔らかく光る様を村越もまた見た。暮れかけのそれと言えど陽光を受けて灰に帰さぬなら始祖か限りなく近いそれか。ぼんやりと思いながらもそのふわふわした様を見ていると村越は己の頭が空になる気がした。恐ろしさも敵意も空になってしまう気がした。すっかり切りかかる事を忘れた村越を吸血鬼もまた殺そうとせず、その気配も見せず、それが何故かとも村越は考えていなかった。

何故美しいんだろう。
化物の筈のあれは、なぜ

「用がないなら、再び敷居を跨いで帰るがいいよ」
「お、」

次の瞬きの後村越は屋敷のある山を下っていくらか離れた街道の人の歩みの流れの中、ふつと立っていた。違いなく追い返されたのだ。

(俺は何を言おうとした)

そんな事は村越にはわからなかった。
ただ陽色に染んで透けるはしばみの髪と、逆光でありながらぬめりと光る血凝りの目が、ひどく寂しげであったことだけ、わかっていた。






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