□おとせばおろち
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小政というか小←政というか






叫びながらこちらに向かって走る男に重なって見えるつい先の過去に、中身の無い右の眼窩がギリギリと痛むのを感じながらも俺の体は難なくそれに反応し対応した。切り捨てる。
濃く立ち昇る血と土埃の臭いが鼻について、自分の中の何かが唸る。昂り続けた神経が疲労感を立ち退かせている。群れて走りくる敵どもに自ら飲まれそして中から食い荒らす。
ほら群れろ、そら群れろ、逃げるんじゃない、背を斬るのは虚しいものだ。向かってこい、走ってこい、逃げるんじゃない、恐れるな。自分の中の何かが吼える。
口角が上がっているのがわかる。体が軽い、ふわふわとしていた。
なあこういう時は危ないのだろ。
お前がそう諌めたのだろ。
止めるお前はまだ目を醒ますまい。切られたのだから。俺を庇って。
今日の傷ではお前は死なぬ。そんな傷では無い。
わかっていても己の中から底冷える、風があるいは何ぞかが吹き上がる。
お前は危険と言うが守らねばならぬ時よりも単騎突っ込む方がた易くて俺は好きなのだ。かわいいかわいい部下たちが、俺の身を案じて付いてこようとも俺はそれを案じて堪らない。
なあお前は、いかなかわいい部下たちよりも、一等俺には大事なんだと。

一等俺の大事でも、お前を大切には出来ぬ俺の立場をどうぞ憐れんで。
ほら群れろ、そら群れろ、逃げるんじゃない、背を斬るのは虚しいものだ。向かってこい、走ってこい、逃げるんじゃない、恐れるな。
かった怒りは受けとめるがいい。俺を格ある龍に留める右目を傷つけたのはお前らだなあそうだろう。

のたうつ大蛇が怒りに狂えて食い荒らす、ただそれだけのこと。







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