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「愛って一体なんだろね?」


そう聞く俺の顔を不憫そうに見つめながら【あなたには一生無縁な話ね】ときっぱりと波江さんは言い放った


「いや、百歩譲っても君には言われたくないな
君だって弟くんのこと本当に愛してるかどうか定かではないんじゃない?」

『失礼ね、私は誠二の事を愛してるわ』


まるで当たり前の事を聞かれたような波江さんの反応に俺は少し恐怖を感じ、背もたれに寄りかかった体を少し前方に向け身構えたような格好に変える


「それは本当に愛だと呼べるもの?
どうせ君の自己満だろ?
愛という綺麗な言葉で飾りつけても所詮は嫉妬や独占欲で塗り固められた醜い感情の集まりじゃないか
そんなものを『愛』と呼んでいるなら人間の思想なんてたかが知れてるよ」


俺が今まで色々な人間を見てきて思ったこと
それは
愛なんて人間の汚い部分をかき集めたもの


『あなた本当捻くれてるのね
確かにあなたの言う通り愛は綺麗なだけとは言い切れない
でも、そんな誰にでもある感情を持ち合わせてないあなたは醜い感情の中でもがいてる人達よりもっと不幸よ』

「はぁ?俺がそいつらに劣ってるとでも?」

『そうよ、気づいてすらいないなんて本当可哀相な人
今まで生きてきた中で心の底から人を愛したことある?』

「…」


一瞬何を聞かれているのか分からなかった
面と向かってそんなこと聞かれるなんて思いもしていなかったし、ましてや答えられるような言葉を俺は持ち合わせていない
真正面にある真剣な目を見つめることはおろか、震えている手がばれないようにするだけでいっぱいいっぱいだった


『無いでしょうね
あなたに分かる訳がない
もし本当にそういう経験があるならこんな性格になってるはずないもの
もうこの話はやめましょう
私これから用事があるから少し出かけるわ』

「ちょっ…」


俺が引きとめようと声をかけた時にはもういなくて、ずっと前から1人でいたのかと思わせるほどの静寂しかなかった
愛用のソファに座りながらまだ手が震えている事を確認すると自分の惨めさに笑みを浮かべる

なんで震えてる?
信じてなかったのに
自分で自分のことが分からないって言葉
まさか俺にもそれが分かる日がくるなんて…
所詮俺もそこらへんにいる人間と一緒ってことか
いや、むしろ劣化してるって波江さんに言われたんだっけ
ははは、こりゃ傑作だ
俺が他の奴らに劣る場所があるなんて


「劣化記念に久しぶりにお酒飲もうかな?」

呟いた言葉と閑散としている部屋があまりにも自然に混じり合ってこの空間はどことも交わることのない1つの世界のよう


「本当アイってなんなんだよ...」


そう自分に問いかけながらも頭の隅にシズちゃんがいるという事実に愕然とした


「あんな奴死ねばいい」

「俺の思いどおりに出来ない奴なんて」


段々と薄れていく意識の中
つけっぱなしの照明の光とシズちゃんの金髪が重なって手を伸ばす
もちろん届くわけがない
もうずっと前から分かってた


「もう消えてよ…、俺の記憶から」


次の日眠りから目を覚ますと明るい部屋のはずが何故か薄暗く、切れかかっていた蛍光灯がまるで何かメッセージを伝えるかのようにチカチカと点滅していた

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