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□with
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兄さんは
いつものようにご飯を食べ
いつものようにしょうもないテレビ番組を見て笑い
いつものように俺の近況を聞く
ただ1つ違うのは
いつも話題に上がるトムさんが全然いないところ
こんな些細なことでも気づいてしまう
2人に何かあったんじゃないかと…


「トムさんと何かあった?」


俺が何事もないようにトムさんの話題を振ると兄さんは大きい体を一瞬だけ震わせた


「別に何もねぇよ。ただ話す話題が無いだけだ」


そう言いながら無理やり作り出された笑顔を見せつけられて
俺は何も言うことが出来なかった
あまりにも分かりやすい嘘
そんなんで誤魔化せると本気で思ってるの?
俺がどれだけ傍で見てきたのか知らないんだろうね

いつも見てたのに
兄さんのことだけ


「どうした?そんなしけたツラして。そんな顔してっと幸せ逃げるぞ」


そんな泣きそうな笑顔で言われたって全然説得力ないよ、兄さん…

俺の頭をぐしゃぐしゃにする手はいつものように温かいのに
少し震えているように感じたのは俺の気のせいなんだろか

なんでこういう時ですら俺の心配するの?
今明らか兄さんの方が辛いのに

全部独りで背負い込んで
自分ばっか追い詰めて

それがまるで当たり前かのようにしている兄さんが

唯一嫌いだった

辛いなら辛いって言ってよ
そんなこと言ってはいけないほど俺は非力に見えるの?

見てて本当に居た堪れない…


「幽…?」


「幽、なんでお前泣いてんだよ?!」と慌てる兄さんの言葉で自分が泣いていることに初めて気づいた

何だ、俺泣けるんだ
演技のときでしか出来ないと思っていたのに
何だ、そうなのか
そう思ったら自然と笑顔になった
顔をあげると突然笑顔になった俺をきょとんと見つめる兄さんと目が合う


「なんだよ、お前。泣いたり笑ったり訳分かんねぇ。心配して損した」

「ごめん」

「いや、別に何もないならよかった」


そうやって微笑む顔はさっきみたいに作り上げられたものとは全然違うものだった


いまだに少し照れくさそうにしてる兄さんに
「俺、兄さんの哀担当になる。よろしく」
と耳元で囁いたのは俺達だけの秘密にしよう

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