ミルトニアの花
□プロローグ
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冷たい、雨が降る。
どしゃぶりの、雨が降る。
「ひどい雨ね…」
ラント領がストラタ軍に占拠(言い方が悪いが)された。
先ほどラントの見張りをしていたストラタの兵士が、追い出された領主の話をしていた。
『弟に追い出された哀れな兄領主』と。
そしてその哀れな元領主は私の目の前にいる。
熱を出して、荒い呼吸を繰り返し眠っている。情けない事この上ない。
「はじめまして、アスベル・ラント君。…って、聞こえてないでしょうけど」
横になっている彼の頬をなでる。熱い。よほど苦しいようで、私が触っている事に全く気づかない。
「惨めね。弟に追い出された挙げ句、熱出して倒れちゃうなんて」
撫でている右手を鎖骨まで動かすと、ぴくりと反応した。私は慌てて手をどかして顔を近づけた。
「騎士学校では優秀だったのに…やっぱり軍の少佐って強いのね。ふふ…ざまぁみろ」
にっこり笑って微笑み、唇を当てようとしたその時、彼はうっすら目を開けた。私の存在に驚いたようだが、熱のせいか、虚ろで、覇気もない。
「お、前……誰だ…?」
「…残念。目覚めちゃったの?じゃあキスはおあずけね」
彼は私を突き放し、剣に手をかけた。が、目覚めてすぐの動作のため、素早く起き上がる事ができないでいる。
「私達はまた会う事になる。またね、アスベル・ラント君」
私が窓から外に出たのと、
扉の外から少女の声が聞こえたのはほぼ同時だった。
to Be continued…