ツガイドリ

□碌でなしは愛に焼かれる
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[その眼差しは蛇の如く]



例えば。大切な友人を一人殺した俺と。
事務的に大勢の他人を殺す彼とでは。
どっちが悪質なんだろうな。
どっちの罪の方がより重たいんだろう?
数が増えようが増えまいが。
人一人の命はそんなに安くないだろ?
今更、法に問い掛けやしないが
神様ってやつはその辺どう考えてんだか。
それが、知りたいと思った。
そう言う意味で。興味があったんだ。
暗殺者『ヒノエ・ニノマエ』に。
ヤヨイの下にいながら
その腕前で名を馳せて
同業共を震え上がらせている
『最凶の人殺し』に。




『おー。ひーくん、兎さん何処行ったよ』


『ヤヨイ様なら、さくらと街に出かけてる』


『えー? つまんねぇなあ。そんじゃあチビちゃん構って遊ぼうかな』


『シラユリとお弁当を持って公園に行ってるよ』


『なんだよ、みんな外出中か。つまんね。じゃあ。アンタぐらいだな、今、遊べそうな奴は』



『いや。遊ばないけどな』



『つうか、何してんの。それ? デスクワーク? 金勘定? 書類整理?』



『・・・まあ。そんなとこだ。僕も何かと忙しいんだよ、こう見えて』



『ふーん』



『暇なら。貴方も仕事をしたらどうだい、ワタヌキ?』



『俺はイイんだよ。やること最低限は。やってるから』



『そうか』



『なあ。ひーくん』



『んー?』



『その缶コーヒーの無糖って、ちょっと苦くねえか? 俺、それは微糖派なんだよ』



『人それぞれだろう。僕には丁度いい苦さだけどな。あまり甘いものは得意じゃないんだ』



『ふーん。渋いんだねえ。あとさあ。前から気になってた事があるんだけど。一つ質問いいかしら?』



『なんだ?』



『アンタって。結局、どっちなの? 両刀?』



『ゲフンゴフンッ・・・』



『正解?』



『貴方、何を突然・・・』



『だってさあ。アンタ、既婚者のくせに寒椿の元カレだっつうし、実はイザヤとも繋がってるとか繋がってないとか言われてるから。兄貴と繋がるだけじゃ飽き足らず、弟の方とも繋がって、シグレ兄弟を揃って美味しく頂いちゃった物好きさんなのかなって』



『───まあ。想像力が豊かなのは構わないが』



『え、違うの? 俺は、てっきり』




『・・・妙な詮索をしないで貰えるかな』



『妙か?』



『僕は既婚者です』



『それは判ってんだよ。で、結局どうなの? 男もOKなの?』



『それを知って貴方、どうするんだよ』



『え? いざと言う時に、強請のネタにする』



『だったら本人に聞くなよ』



『本人から聞いた方が信憑性高いだろ』



『・・・、僕は。シラユリ一筋だよ。ただ。別に男だとか女だとか拘らずとも。好きになったら、相手が何者だろうが。そんな事さえ関係無いんだな、と思ってる。今は』



『へえ。アンタにしては生易しい回答だな』



『友人達を見ていたら、そう思ったんだよ。大体。貴方は、僕を何だと思ってるの?』



『ハイスペックな変態?』



『僕は、至ってノーマルなんだが』



『嘘だあ。ノーマルだったらシラユリは選ばねぇよ』



『彼女に聞かれたぶん殴られるぞ、お前』



『やだ、怖ーい』



『・・・ワタヌキ。僕よりも。貴方、自分はどうなんだ? いつも女の子侍らせて歩いてるみたいだけど。結婚を考えるような特定の娘はいないのか?』


『いねえな。俺は。そーゆーの作らない主義なんだよ』


『どうして?』


『だって重いだろ? 何か背負うって。あんまりさあ、肩の荷を増やしたく無い質なんだ』



『へえ・・・貴方らしい回答だね』



『背負うものは。一つで十分さ』



『──ふうん。貴方は「何を」背負ってるんだい?』



『さあ。なんだろうね?』



のらりくらりと掴み所は無いのに
ふとした瞬間。鋭い目つきで
此方を見てる。威圧的で攻撃的な視線は
シラユリやキノトの前じゃ
絶対に見せない顔だな。
蛇のように重たく、心地悪い
嫌な目つきだ。人殺し特有の。



『・・・思うに。僕とそう変わらない気がするな。貴方の場合』



『え、そう?』



『取り繕っちゃいるけど。本当は。ただの嘘吐きだろ?』



『えー。ひーくんは、そう言う人なんだ?』



『さあ? どうだろうねぇ?』



『───その嘘が、重たいって。感じる日は無い?』



『あるよ。僕はログデナシだから。シラユリやキノトの前にいると。幸せの反面、いつも罪悪感でいっぱいだ』



『人殺しだからか?』



『・・・まあ。それも一理あるね』



『一理かよ。じゃあそれ以外では?』



『人には言えないような。若気の至りが多々。そして恐ろしい事に。それは今も尚、現在進行形で進んでいる』



『なんだそりゃ・・・』



『まあ。そーゆー訳だから、その帳尻合わせで何かと忙しいんだ、僕も。貴方と遊んでる暇は無いのさ』



『ふーん。そーかい。そーかい。そら大変ですね。邪魔して悪かったよ』



『別に邪魔とは言ってないが?』



『ぶっちゃけ。ちょっとアンタに興味があったんだけど。何だか聞けそうにないから、今日の所は諦めるよ。アンタ今、あんまり機嫌よくねぇだろ?』



『まあ、確かに少し疲れてるな。引き際を見つけるのは大事だね。藪蛇とか。好奇心は猫を殺すなんて言葉もあるぐらいだからね』



『・・・おっかねえの。脅してんじゃねーよ』



『僕が寒椿に関係してたなんて。ヤヨイ様と一部の人間しか知らない。何処で知ったのか知らないが。側近でも無い貴方が。内部情報にまで詳しいのは。あまり関心しないよ』



『・・・まあー。そうですね。以後気を付けますわ。余計な事は、喋りすぎないように』



『ああ、いい心掛けだ』



釘を刺されて、藪蛇かと。
眼鏡越しとは言え冷たい眼をしていて。
こいつは俺以上に歪んでると感じたから。
真っ向から踏み込むのは諦めた。
キノトの父親。シラユリの旦那。
イザヤの後見人で、寒椿の元彼。
身体は半身サイボーグで凄腕の殺し屋。
無秩序過ぎて。俺には到底理解できないが
いつかその内。もう少しぐらい。
垣間見てみたいもんだ。
未知の領域ってやつを。
アンタは、一体どんな顔して
人を殺すんだろうな。


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