ツガイドリ

□それは月の無い夜の話
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『───ロキ・フヴェズルング・・・嘘と欺瞞を司る悪神。万物に干渉し、時間魔法を得意としている』





深夜一時。イザヤはまだ帰らない。
複製された神の記述を開き。
一人読書に耽った。
イザヤは異世界の悪神
『ロキ・フヴェズルング』の
同一存在だと知った。
並行した世界に存在すると言われる
『可能性』の一つ。
生まれる世界が違えば、イザヤも
此方側の存在だったと言う事だ。
そして、あの男もまた
俺の同一存在だと言う事が判った。
『ヴィルヘルム・タナトス』
奈落を支配する屍の王。死の運び手。
空に仕えた俺とは真逆の存在だ。
悪神と屍の王・・・羨ましいな。
俺とイザヤがそうだったなら
どんなに良かっただろう。
何一つに気兼ね無く、愛し合えたのに。
けれど、ロキには。妻と子供がいる。
きっと。タナトスと言う、あの男は
その世界じゃ、彼に
選ばれ無かったんだろう。
それでも『ロキ』を。イザヤを。
愛してるんだ。だから此処に来た。
何処にいて、何をしていても。
立場も、役割も。関係性すら
今とは、まるで違っていたって
やっぱり俺は、イザヤを
求めてしまうみたいだ。
皮肉なものだな。


『離れるなって事か・・・』


神の記述によれば。
俺は近々、空に帰されるらしい。
それが引き金になって、イザヤは
悪道として破壊衝動に呑まれる。
俺に深く依存してる彼は
孤独を何よりも恐れていて
それに耐えられないらしい。
独りに耐えかねて心を無くしてしまった彼は
次第に人間とゴミの区別がつかなくなって
破壊と殺戮を繰り返したのち
人類を破滅へと導く『堕落の女神』と化す。
変異体で余韻持ちのイザヤが
他人に及ぼす影響力は絶大なものだが
断罪者の俺が隣にいる事で、それは上手く
中和されて来たようだ。
神の遣いともなれば。
魔物に対する耐性はそれ相応。
穢れを落とし闇を祓う。
イザヤの毒は強いけれど
きっと俺にしか、祓えないだろう。
あの焼けるような焦燥を上回って
彼を愛し、尽くせる男は俺以外にいない。
依存と愛の狭間にある、この感情は
重く歪んで。俺を雁字搦めにしてる。
何一つに、興味も執着も無かった俺を
盲信的に。狂わせてしまった。
だから、俺は。どんな理由があっても
彼から離れてはいけないんだと
そう。言われてるような気がした。



『なんか、ツガイドリみたいだ』



・・・だったら。どんな未来を描こう。
イザヤとずっと一緒にいる為には
何を犠牲にすればいい?
筋書きを変えようと神の定めた
因果律は変わらない。
何かを変えれば、また同じ分だけ
代償がまとわりつく。
俺とイザヤが死なない未来は
何を犠牲に成り立つのだろう?


『・・・、』


前途多難だ。俺達に祝福はない。
それでも。君を選んでしまう
愚かな俺を許して欲しい。



『ああ、でも。どうせなら。イザヤが、笑える未来がいいな・・・』





二人で死ぬのもいいさ。
イザヤをこの手にかけるのだって
堪らなく甘美な事だろう。
でも、どうせなら。もっと。
もっと。色んな彼を見ていたいな。
泣いたり、怒ったり、笑ったり
もっと沢山。数え切れないぐらい。
色んな君を。この目に焼き付けたい。
君の全部を余すことなく─────。





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