ツガイドリ

□剥き出しの悪意に眠る
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『───さて。此方はどうしてあげようかなあ』




客間の扉を開くと。椅子には
キサラギとニノマエが座っていた。
『よぉ』と手を上げたキサラギに
トウマは会釈し、向かい側の席に座る。
俺は彼の斜め後ろに控えて
背中で手を組んだ。
ヤヨイ・キサラギ。相変わらずの
悪い目つきとは不釣り合いに
甘く優しい花の香りがする。
白銀の髪に赤い瞳は生まれつきらしく
何処か人離れした身形に対して
中身が下劣極まりないこの男に
『勿体ない』と感じるのは
きっと俺だけじゃないハズだ。



『さー。何から話すよ? わざわざ来てやったんだ。それ相応にもてなせよ?』



『今日はね、君がやらかした事について色々と、問いただしたいと思ってるんだ』



『あ〜、イザヤを犯した事か?』



『うん、そう』



互いに動揺はなく。ニタニタと
笑い合ってるから不気味で仕方ない。
表情と、話の内容が一致してないから
空気は澱んでる。ニノマエは馴れてるのか
狐のように細い目で此方を一瞥したあと
肩をすくめて缶コーヒーを啜った。
彼は何故かいつも
缶コーヒーを持参してくる。


『あれは、なかなか良かったぜ? アイツ、ペットとヤリまくってる割には、締まりがいいからな』



『困ったものだね。男娼みたいに』



『アイツの「余韻」ってのが。悪道に発情を誘発するらしいな。俺は、悪道に落とされた挙げ句。その種馬に選ばれて。アイツが欲しくて仕方ないワケだ。孕ます事も出来ねぇ、あの雌猫をよ。ムカつく事この上ない話だよなあ』



『イザヤは。特別な子だからね。あの子の余韻は。悪道にとって甘い甘い猛毒だ。俺も。きっと。それに当てられていたのかもしれないね』



『あ?』



『昔からさ。イザヤを。犯したくて犯したくて仕方なかったんだ』



場の空気が凍てついた。何を。
何を言ってるんだ、この男は。
穏やかに笑って、何を。


『まだ幼かったから。そうも行かずに。だから、俺は離れたんだよ。ねえ? ヒノエ』


『・・・、』



キサラギは、横目でニノマエを睨み付けて
『そら初耳だな』と呟いた。
ニノマエが、トウマの
友人だったのは知ってるが。
イザヤに関しても一枚噛んでるのか?



『──さあ。僕は友人だった「トウマ」って男から、最愛の弟を託されただけで。貴方の事までは知らないよ』


『でも。その友人のトウマ君が。折角、君を信頼して。最愛を託したのに、彼の大事な弟君は。君の最愛のご主人様に、まんまと犯されちゃった訳じゃない? どうしてだろうね?』



『・・・』



ニノマエは、何を言い訳する事もなく
極めて無表情で缶コーヒーをすすりながら
『それは、僕が悪い』と呟いて
飲み干したコーヒーの缶を
振り向く事もせずに
後ろのゴミ箱に見事投げ入れた。



『ヒノエ。良くねぇぞ、隠し事はよ。俺が一番嫌いな話だ』



『ですよねぇ。けどまあ。これは個人的な話だから。ヤヨイ様に話す事でもないかと』


『・・・いい度胸じゃねぇか。ヒノエ。帰ったら覚えとけよ』



『───で、本題なんだけどね。キサラギ』



『何だ』



『犯されてハメ撮りコースだったっけ? イザヤと同じ目に遭わされるのと、今此処で死ぬの。どっちがいい?』



『・・・ククク、お前。バカじゃねぇの? んなもん───』





『どっちもノーに決まってんだろ』と
言い終えるより先にテーブルを
足でひっくり返すと、キサラギは
『テメェが死ねや』と呟いて
すぐさま懐から取り出した銃を
こちらに向けて来た。
負けじと俺も銃を構える。
トウマは、割れたグラスの硝子片が
散乱した足元を気にする事もなく
椅子に座ったままニコニコと笑顔を湛え
右手の親指と人差し指を立てると
銃を模して『バーン』と
キサラギに指を向けた。



『じゃあ、殺されてから回されるってどう? 結構悲惨じゃない?』



そう言ったと同時に立ち上がり
片手で椅子を投げつけて
キサラギに飛びかかった。
二発の銃声が部屋に響く。
まるで肉食獣のように俊敏で
獰猛な動きは、あの美しい顔立ちから
想像できないような攻撃性を秘め
右肩と腹部を撃ち抜かれても
まったく怯む事はなく
血を滴らせながら彼を押し倒した。
トウマは。イカレてる。
人間のふりをした。魔物だ。
キサラギはトウマの額に銃を突きつける。
ニノマエも、真っ直ぐトウマを狙ってる。
俺は標的をニノマエに移した。




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