偏愛フリークス
□Halloween Chaos Theater
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魔物犇めく、この城の中で
僕を食べようとする奴がいないのは
僕が『夜の人』の隷属だからだ。
本来、憎むべき対象の保護下で
生かされてる僕は
せめてもの悪足掻きにと彼に
逆らってばかりいるのだけど
あまり。意味をなしていない。
『お呼びですか』
『君もブリジッドと変わらないな。すぐに逃げ出す』
『ここにいても。退屈なもので』
『火炎の魔導書を知らないか?』
『見てませんが』
『おかしいな、最近、魔導書がよく無くなる』
『僕じゃありませんよ』
『他に心当たりはないか? 何処かに置いてあった、とか。私が忘れているだけなのかもしれないからな』
『僕には判りません。きっとそのうち、見つかるでしょう。それじゃあ───』
『待ちなさい』
『何です?』
『誰が。この部屋から出ていいと言った?』
『・・・』
『君は最近。よく抜け出すが。私はそれを許可した覚えがない』
『・・・城の中を歩き回るぐらいの権利は欲しいものですね。四六時中、貴方といたら息が詰まる』
『なら。首輪に鎖をつけよう。私は君やコンラートのように柔軟じゃない。躾には厳しいんだ』
『僕は貴方のペットじゃない』
『ああ。違う。ペットじゃない。そんな風に思ってはいない』
『隷属だ。ただ一人の』と。笑った。
鋭く尖った歯は。捕食者特有のもので。
人を喰らうためにある。
いつも目深帽子で隠している額には
もう一つの目がある。
月が満ちればより一層、醜い姿になり
あらゆるものを破壊する。
『夜の人』は、本物の怪物だ。
同じ魔物でさえも。彼の前に
ひれ伏すのだから。
『君を育てたのは私だ。君の肉親よりも君の事を知ってる』
『・・・知ってるなら。僕が常日頃。どんな気持ちでいるか、判るでしょう?』
『どんなに抗っても。君は籠の鳥だ。今更どうしようもない』
『・・・』
何度か殺そうとした。
部屋に火を放っても。
ナイフでその喉を掻っ切っても
彼は決して。死ななかった。
あらゆる物理攻撃を諸共せず。
そのたびに。僕は。
自分の非力さと、絶望的な立場。
恐ろしい現実を教えこまれた。
この化け物には。敵わない。
そう判断するのに時間はかからなかった。
『飼い殺して、どうするんです。こんなつまらない生き物。貴方なら一捻りでしょう』
『私は、愛と言うものをいまいち理解していないが。君を愛せるかどうかを試しているんだ』
『結果は?』
『君の姿が見えないと苛立つのは確かだ。君が私でないものと会話を弾ませていれば、どうしてか頭に血が上る。これは執着心の現れじゃないだろうか』
『・・・独占欲は、単なる欲求の一つです』
『かもしれないが。いい方向に向かっている』
『貴方はそれを知って、どうするんですか?』
『探求心だよ、ただの』
『・・・』
伸びて来た得体の知れない触手が
僕の手を引っ張った。
ずるずると引き寄せられて
いとも簡単に、その腕の中へ。
身体にまとわりついてくるソレも
首筋に突き立てられる尖った歯にも
馴れてる自分が虚しかった。
『またそうやって・・・』
『少し。口が寂しくてね』
『それだけで終わった試しがない』
『判っているならいいじゃないか』
『貴方にとって、僕はただの餌でしかないように思う』
『いいや。隷属だよ。君は私がいなければ生きてゆけないだろう? ただの餌なら生かしておく必要も無い。それをわざわざ庇護して生かしているんだ。弁えなさい。少し特別なんだよ』
『僕には理解しがたい』
『今まで一通りのモノは食して来たが。君の血が一番、気に入っている。出来たら本当は。骨も残さず全て平らげてしまいたいのだけれど。それはきっと「愛情」の定義に反するから。堪えているんだ。これは特別な事だと思わないか?』
『愛情ってきっと。湧き出て来るものなんですよ、自然と。何かを慈しむと言う事は、心の在り方であって。得ようと画策して得られるようなものじゃない。だって、貴方には。肝心の「心」がないから』
『多少はあるさ』
『多少のそれじゃ、慈愛には辿り着かない。僕は、いつか。貴方に食い殺されて終わると。そう信じてる』
『酷い事を言う』
『戯れに生かしたネズミを。嬲り殺す猫と、そう変わりませんよ。貴方がしている事なんて』
『そうか。では。少し改めないとならないな』
喉にうっすらと食い込む歯は
僕から言葉を剥奪して
その痛みに目を閉じる。
僕が逃げないようにと
身体にまとわりつく無数の触手は
まるで植物の蔦のようにも見えて
きっとそれが。本来の彼なのだろう。
人を模しているが。人じゃない。
手も足も。目も口も。
僕に見せる姿は、いつだって化け物だ。
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