偏愛フリークス

□愛と土下座のエスペランサ(完結)
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─愛と土下座と変質者(1)─




愛してるからヤらせてください。
ベッドの下から現れて
そうのたまった、友人を
木刀でぶん殴った。
ある蒸し暑い、夏の夜の事だった。





『沸いてんじゃねぇ』



『いや、違うんだ、まず、話を聞いて欲しい!! これには深い事情があってだな・・・とりあえず、その木刀を置こう!!』



『人んちのベッドの下から出て来るような奴の深い事情なんざ、知りたくもないわ』



『俺、どうやら呪われちゃったみたいでね・・・本物の愛をこの身に受けないと、一週間後に───』



『糞も聞いてねえから。語らないでくれ』



『お前、薄情だな。それでも友達かよ!』



『友達んちのベッドの下に潜んでた異常者が何をほざいてんだ。通報しなかっただけありがたいと思え』



『だって、お前、素直に頼んだら怒るだろ?』



『俺が電気をつけなかったら、お前は何をどうするつもりだったんだ? この腐れ変質者が』



『顔に木刀向けんなって!!』



『昔から何かオカシイ奴だとは思っていたが。まさか、こんな暴挙に出るとは・・・』



『暴挙じゃねぇ! 愛さ!』



『変質者が愛を語るな』



『俺、愛が無いと一週間後に死ぬんだよ。死んじゃうんだよ!? それなら、相手は。お前しかいないだろ!?』



『話にならんな』



『いや、俺もね、血迷ってる気はした。したけど、この三日間。お前を観察してたら判ったんだ。俺、お前なら全然抱ける!!』



『頼むから、日本語で話してくれ』



『貴殿とならば性行も厭わない』



『そうではなく』



『なあ、頼むよ、頼むよ、白城。土下座でもパシリでも何でもするから抱かせてよ、一回でいいからお願い』



『これ、あれだろ。お前のしつこさに俺が折れて「なんでそうなった?」って事情を聞くの待ちなんだろ? そっから、雪崩れ込んでくパターンのやつなんだろ? 聞かねえからな』



『そんなこと言ってたら物語が始まらないだろ!?』


『始める気がねぇ』



『始めようよ!!』



『始めたいなら、俺じゃない奴で始めてくれ。まだ始まってねぇんだ。BLになるかファンタジーになるかは、お前次第だぞ』



『BLはファンタジーです!』



『じゃあ、頑張って』



『違う!! お前でなければ意味が無い!! 俺はお前を愛してる!!』



『愛される理由が無い』



『顔と声と体毛の薄さ』



『そんぐらいの奴、その辺にいっぱいいるから大丈夫だ。頑張れ』



『あと』



『何だよ』



『オナる時の声のエロさ』





───────────ゴスッ





ベッドの横には木刀を。
それが我が家の防犯対策。
このご時世、いついかなる時に
暴漢が現れるか知れたもんじゃない
それが死んだ爺ちゃんの遺言。
ただし、過剰防衛には気をつけろ。
空き巣を半殺しにした姉ちゃんに
恐れをなした親父が付け加えた教訓。




『大体。俺がお前に惚れてない時点でアウトだろ。その「呪い」とやらを解きたいなら』



『あの、痛くて目が開かないんですが、俺の顔どうなってんの?』



『真実の愛をその身に受けなきゃならないんだろ? 仮にそれが本当なら。お前を好いてる奴と寝りゃいいんじゃねぇのか。そもそも呪いをかけられたとか。そんな非現実的な話からして、信用してないけどな』



『いや、そうなんだけどさ。俺だって探したけどさ。いなかったんだよ、俺を好いてる女子』



『まあ。顔面偏差値15ぐらいだもんな、お前』



『・・・マジか』



『性格も鬱陶しいしな』



『マジか・・・』



『俺に愛されるよりも、女探した方が早いと思うぞ。顔面偏差値の低さなら、服装や髪型で何とかカバー出来るだろ』



『けどさ』



『ああ』




『見てくれで変わるなら。それ「真実の愛」じゃなくね?』



『細けぇな!!』



『だから、俺は真実の愛を探してんだよ!!』


『悪いが。俺は。お前に捧げる愛なんざ一ミリも持ってない』


『一ミリも? ・・・ホントかな?
俺、知ってんだぜ。お前がオナる時。実は・・・後ろも開発済みだっての』



『そ、それが・・・何だよ?』



『つまり、お前、ぶっちゃけ男でもいける質なんだろ? 毎晩。誰をおかずにして、ナニ想像してたんだよ? ん?』



『・・・それは』



『確か「タクミ」って。名前も呼んでたよなあ?』



『職場の。藤田先輩・・・』



『────俺じゃないのかよ!?』



『ああ・・・悪いが、タクミ違いだ。お前じゃない』



『お前、ちょっと待てよ、幼なじみで親友の「タクミ君」を差し置いて、多分この後、名前以外は出て来ないであろう職場の「タクミ先輩」で抜くとか、酷くね!? それ絶対モブだぜ!? 話の尺の手前、名前しか作られてないキャラクターとかだぜ!?』


『モブじゃねぇよ!! お前が知らないだけだろ!! 藤田先輩はな、お前と違って男らしく屈強で小石ぐらいなら片手で握り潰すような握力を持った超ワイルドな人なんだよ!!』


『何だその怪力ポケモンみたいな奴!? 屈強過ぎて気持ち悪いわ!! そんな奴に身体触らせたらお前死ぬぞ!? 殺されるぞ!? チンコもがれるぞ!?』


『だから想像で抑えてんだよ!!』



『想像に使うなよ、そんな奴!!』



『俺は、屈強な男とツインテールのSっ気ロリータにしか萌えないんだよ!!』



『すっげぇ偏ってんな!?』



『だから、お前はアウトだ。お前じゃ事足りない』



『・・・畜生、俺の呪いより、お前の偏りがちな性癖と、バケモノみたいな先輩の話の方が、話題性もインパクトも遥かに上回るじゃねぇか・・・』



『ああ。お前の呪いとか、どうでもよくなってくるよな』



『本当にね!!』






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