ロジパラEXT

□教師と生徒のワンダフルデイズ
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[新旧混同ロマンス(3)]




『───そうかい、そうかい。君もマコも、なかなか大変だねい。人間様とて人里から遠く離るるば、神の域さ。ましてや時渡りなんぞ、尚更に。平凡からは少しばかり遠ざかる。仕方のない事さ。奮闘するのも。好き好んで選んだ荊の道だ』



『そうですね、本当に』



『偉いな。ああ。偉いとも。君もマコも一生懸命。戦いながら日々を生きているんだな。強者だ』




『にゃにゃ』と笑って猫神様は頷いた。
カラカラと下駄を鳴らして歩く。
猫神様に誉められたのは嬉しくて
けど反面、少し照れ臭かった。
真っ直ぐな言葉が、じんわりと染みるから。
出店の人達が『おお、猫屋。珍しいな』と
こぞって声をかけてくる。
猫神様が街の中心部まで
出て来るのは相当珍しい事らしい。
そりゃあそうか。化猫軒は無定休だって
お祭り屋さんが言っていたし。
一人で切り盛りしてるなら
店からはなかなか離れられないだろう。
けど、今日は特別な日。
狸の人が帰ったと同時に店を閉めて
戸に『本日、定休日』と貼り紙をした。
無定休の化猫軒が休むのも
『そーゆー日だからいいのさ』とのことで。



『あー。あー。猫屋さん!』



『おー。兎屋の小童かい』




神火の所に向かう途中、兎の男の子に会った。
さっき、お面屋さんに怒られてたあの子だ。
長くて白い耳がふたつ。ピンと立っている。
首から下げた時計は透けて
中の歯車が見えていた。
化猫軒の向かいにある兎屋時計店。
あの店の子だろう。



『イヒヒヒ。わたあめ。いっぱい貰った!』



『そうかい、そうかい、良かったねい』




『この子だあれ?』



『彼は、うちのお客様さ』



『すん。あー!懐かしい匂い。マコの友達?』



『ああ、その通り』




『じゃあ、じゃあね。わたあめあげる。イヒヒヒ。マコの友達は、おれも友達ー!』




『え、あ、ありがとうございます・・・』




『あのね、わたあめ、おいしいよー!』




そう言うと兎の子は
宵闇亭の方向に走って行った。
手には綿飴の他に水風船や
提灯、風車なんかを沢山持っていたから
きっと家に置きに行ったんじゃないかな。
足が早くて、あっという間に
後ろ姿が遠くなってしまったけど
猫神様が『走ると危ないぞ。小童』と叫ぶと
『大丈夫!』と、大きな声で返事をした。
結構、離れていたのに
ちゃんと聞こえてるんだな。
長い耳は伊達じゃない。




『あれは、うちの小童の友達でねい。時計屋のせがれさ。マコがいた時は、よく小童とマコの取り合いをしていたよ。どっちが肩車をして貰うかって』



『アハハ、先生。人気者』



『マコはとても優しかったからねい 童共は、みんな懐いていたよ。だから、うちの小童が焼き餅を焼いて酷かった』



今の先生からは、ちょっと想像できないな。
小さな子供達に囲まれてる姿なんて。
けど、猫神様の話を聞く限り
イズルさんや、兎屋の子にとっては
きっと『良きお兄さん』だったんだろう。
確かに面倒見はいい人だと思う。
でも今じゃ、煙草を吸って新聞を読んだり
眉間に皺を寄せてパソコンを弄ってたり。
どちらかと言えば気怠そうにしてる姿の方が
しっくり来るから。
大人になると。八十万は見つけずらい。
純粋が遠ざかるからって。
先生の言ってた意味が
少しだけ判った気がした。
きっと。綺麗なものと同じぐらいに
嫌なものも沢山。知ってしまったんだろう。
だから、先生は少し
変わったのかもしれない。
昔より。少しだけ物事を冷静に客観的に
見られるようになってしまったのかも。
成長って必ずしも、そこに輝かしい未来が
ある訳じゃないだろうから。
人は汚いものも、綺麗なものも
全部飲み込んで大人になってくんだろうな。
けど、それは何も悲しい事じゃなくて
次の子供達の為に自分が子供でいることを
辞めた人達なんだ。




『ほら、見えてきたぞい』



『───、凄い』




錆びた階段を降りて、下層に行くと
神火が近くなってバチバチと
火の粉が飛んで来た。
それで焼けてしまったのか、傍らにあった
鯛焼き屋さんの看板は鯛の字が
真っ黒に焦げていて
『焼き屋』になっていた。
神火に焼かれて、文字通り『焼き屋』って。
いや。洒落にならない。




『ジンナイ君、不死鳥を知ってるかい?』



『火の鳥ですか?神話でなら』



『そうさ。ヒノカミは不死鳥だ。今燃えているのは先代が生まれた時に灯した炎。幾千年、八十万を照らしてきた』



『・・・ずっと?』




『ああ。前回の神火は私が小童と差ほど変わらないぐらいの頃に交代している。そして、先代はつい昨日。天命を全うした。不死鳥と言う奴は、 命が尽きる時に己が灯した炎に還る。そしてまた。生まれ変わる』



『輪廻、ですね』



『ああ。そうだ。輪廻と言う奴は巡り巡る。終わり無き螺旋を描く。だから不死鳥を見ていると輪廻転生とは妙なものだと感じる。私が思うに、姿形は違えども魂と言う奴は、絶対唯一であり。尽きては器を変えて、また世界を巡っているんじゃなかろうか?』



『・・・絶対唯一?』




『そう。不死鳥の如く。だからこの炎は先代であり、新たな命でもある。ほら。炎の中心に卵が見えるだろう?あれが新しいヒノカミだ』



『あ、ホントだ!』



『新旧は混同され。そしてまた、八十万を照らす。それがヒノカミの役割だ』



燃え盛る下層の中心にある大きな卵。
鯛焼き屋もとい、焼き屋の主人が
猫神様の話に頷きながら
『何も不死鳥だけじゃあるめえ』と
鯛焼きを此方に差し出してきて
『食え、美味いから』と豪快に笑った。
山犬の頭に人間のような身体をした人で
神火が眩しいのかサングラスをしていた。
お礼を言うと『気にするな、坊主』と
親指を立てて、また笑う。
何か、このノリ、誰かに似てる。




『人間様とて、同じ事よ。天命があって、巡るんだろう。俺は、これとよく似た光景を知ってる』



『似た光景?』



『昔。イズルも人間様の兄ちゃんと来た。ソイツは坊主とおんなじように、神火を見て呆けてたよ。神火交代でこそなかったが、間近に見るヒノカミは圧巻だ。すげぇってな。そん時の光景と、よく似てる』




『・・・先生も?』



『そうかい、そうかい。小童もマコと来てたのかい。猫屋は親子揃って同じ事をしてるんだねい、ニャニャ』



『それもまた一つの輪廻よ。なあ、坊主?』



いつか、先生とイズルさんも
此処で同じ景色を見たんだ。
姿形は違えども、巡り巡るってのは
実にその通りなのかもしれない。
魂が絶対唯一かどうかは。
まだ俺には判らないけど
先生から受け継いだものは
確かに俺の中に根付いていて
だから、こうして。
此処に導かれたんじゃないかな。
過去と未来が共存してる
この不思議な世界に。




『・・・あ、』




燃え盛る炎の中で
パキパキと卵に亀裂が入ったのが見えた。
もしかして──────





『おお、生まれるぞ!』



焼き屋の主人が大きな声を上げた次の瞬間
卵が割れると綺麗な鳴き声を上げて
巨大な火の鳥が空に舞い上がった。
一瞬の沈黙の後、八十万中に
わあっと歓声が響き渡った。


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